15 怒り
「それでルーカス。8年振りにいきなり帰ってきて。なんかあったのか?」
「あー……。そうです、ねえ」
正直なところは『教官長と部隊長にハメられてクビになった』という感じだが、どこまで言っていいものか。
「教官になってから暇になったってところか?」
「オレが騎士やめて教官やってたことは知ってるんですか?」
「王都帰りの傭兵達に話し聞いたり、これに載ってたりしたからな」
言いながら取り出したのはミスリードの情報誌。どうやらこの村にも愛読者がいるらしい。それに、傭兵達からも話を聞いているようだ。王都にいた頃は顔見知りの傭兵に会わなかったが、騎士をやめたという話しは知られていたらしい。
だが、そこまで知っているなら正直に話してよさそうだ。情報が回るのは早い。特に傭兵達の耳の良さは諜報部隊より早いこともある。嘘を吐いたところで意味はない。
「実はクビになっちゃいまして。王都からの追放。金輪際、王都騎士団には近付くなと。まったくやれやれな感じですよ」
オレの言葉に、2人は驚き、というよりは不思議そうに顔を見合わせている。
「王都からの追放なんざ聞いたことねえ。それに騎士団に近付くなとは、随分なことやらかしたんじゃねえか?」
「やらかしたというか、なんというか。まあいろいろありましてね」
歯切れの悪いオレに、ハリドさんが大きな体を寄せて、珍しく小さい声を出す。
「なんだよなんだよ。なんかあったんだろ?」
隣に座っていたアンナさんもそれを真似て身を寄せてきた。
「いいじゃないいいじゃない。ここだけの話しにするから」
ここだけの話し……だったらいいか。田舎村から王都に話しが届くとは思えない。それに、もし届いたとしてミスリードが書いている情報誌のように、ただの噂として風化していくだけだろう。
「いやね。実は」
ちびちびと酒を飲みながら2人にこれまでの経緯を話した。
騎士団長、教官長に呼び出されてクビを宣告されたこと。オレが指導している部隊の成果が悪いと言われたこと。指導をしていた隊長が入ってきて、贔屓をしているといちゃもんを付けてきたこと。
その後、バッツからいちゃもんを付けてきた理由を聞き、その裏にはアンジェロが関わっていたということ。
「とまあそんな感じです。いきなりのことで腹は立ちましたが、喋れてスッキリしましたよ」
苛立ちはずっとあった。だが、口に出すとすっきりするものだ。
だが。
「なんだその話は!無茶苦茶じゃねえか!」
ハリドさんが大声を出しながら立ち上がる。
「許せねえ!俺が今からぶっ殺しに行ってやる!」
「まあまあ。落ち着いてくださいよ」
「あぁん!ルーカスは悔しくねえのか!こんなことされて!お前が8年王都で騎士団に尽くしてたことは傭兵達から聞いてんだ!その仕打ちがこれか!」
「ハリドさん」
酔い交じりにも、怒りに満ちた大きい瞳を見つめる。自分ではどんな表情をしているかはわからない。だが、ハリドさんは「ふんっ」と鼻息をついて腰を下ろした。
「騎士やめて教官になった時点で、そのうち騎士団から離れようとは思ってたんで。これはただのきっかけですよ。腹は立ってますけどね」
騎士団を追い出されたという怒りではなく、アンジェロとバッツにハメられたという苛立ちだけど。
「ならよ!」
「でも。サンベリルに帰るにはちょうどよかった。こんなことでもなかったら、ずるずる王都にいたかも知れませんからね」
なにせ村を出て8年、全く顔を見せなかったのだ。大した理由があるわけでもないのに、くだらない言い訳でここに来ることを拒んでいたいかも知れない。いや、拒んでいたと思う。
「あいつらに感謝なんてしてませんけど。こうしてハリドさんと、アンナさんとお酒を飲めてるんですから。そんなに悪いことじゃなかったかなって。ね?」
同意を求めると、ハリドさんは呆れた、と言わんばかりに大きいため息をつき、アンナさんはにこにこと笑顔を浮かべていた。




