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1 追放

「はい、お疲れ様。今日の訓練はここまで」


 手を叩いて解散を合図すると、屈強な肉体の男たちが談笑しながら騎士団の庁舎、中庭を後にする。


「お疲れルーカス」

「あいどうも」


「ルーカス、若造のくせして厳しくしやがって」

「聞こえてるし、オレよりお前のが年下だろ。オレは23歳だぞ」


「訓練つけてくれて今日もありがとうな」

「いいよ。また気が向いたら来てくれよな」


 声をかけてくる騎士達に返事をしながら全員が居なくなるのを見送っていると。


「ルーカス、お疲れか?」


 オレの目の前に立ち止まったのは騎士団の中でも一際身体が大きくがっしりとした筋肉を付けた大男。見上げるほどの身長差があるのと、同じ人とは思えないほど分厚い身体の持ち主なので、対峙すると、思わず身構えてしまう。


「オレは見てるだけだからお疲れでもなんでもないよ」

「なら一戦どうだ?」


 大男がニヤリと笑うと白い歯がキラリと光った。

 対してオレは、またかとため息をつく。


「勘弁してくれ。オレは教官だ。現役のお前に敵うわけないだろ」


 オレは騎士団の戦闘教官。任務がない暇している騎士団員を鍛えたり、戦い方に悩んでいる奴の相談に乗ったりするのが主な仕事。戦うことが仕事じゃない。


「そうは言わずによお。力があまり余ってるんだ。一回ぐらいいいだろ?」


 腕を回して近付いてくる男を押し返す。が、オレ程度の力じゃそれは敵わず。

 ぐいぐいと分厚い胸板が近づいてきたので。


「悪いな!このあと騎士団長に呼ばれてんだよ!」


 男を交わして走り出す。


「おい!そりゃねえぜ!」


「そんなに戦いたいなら自分の部下と戦えよ!お前は六番隊の隊長だろ!」


 すたこらさっさと庁舎に入り、追ってきていないことを確認してから歩き出す。


「六番隊の休暇は少なくしてもらうようにお願いしてみるか」


 六番隊はやる気がある屈強な男たち揃い。参加自由の訓練でも毎回全員参加している程。オーバーワークで死なれたら困ると思って他の隊と同等の扱いをしていたが、あんな調子だったら騎士団長に相談してみるのもありかも知れない。


 考え事をしながら歩いていると、すぐに目的の場所に付いた。王都騎士団、団長の個人部屋である。お堅い人間なのであまり得意じゃないんだが、お呼び出しなのでしょうがない。深呼吸を挟んだ後、コントンと扉を叩くと。


「入れ」


 短い返事。


 重厚な木製の扉を開けた瞬間、空気が一変する。余計な装飾はなく、簡素ながらも緊張感のある規律の空間。机や棚は深い色合いの木材で作られており、壁には騎士団の紋章が掲げられいる。その下には使い込まれた剣や槍が整然と掛けられている。いや、装飾というよりは常に手が届くよう実用を重視した配置。


 つまり、下手をすれば即座に斬り捨てられるということ。


「王都騎士団。戦闘教官のルーカス。参りました」


 騎士団長を見て思うのは、隙がないということ。無駄のない動き、鋭い眼光、そして沈黙すら威圧に変える存在感。感情をほとんど表に出さないその表情は、冷たい石の彫像のように硬く、だがその瞳はしっかりとこちらを見据えている。


「おおルーカス。待っていたのね」


 と、その隣に戦闘教官長、アンジェロが座っていた。こちらはぽっちゃりとした中年オヤジ、と言ったら目上の人には失礼か。それでも我が上司ながらたるんでいるのは間違いない。


「アンジェロ教官長。お久しぶりです」

「うむっ」

「それで、今日は何のようで?」


 騎士団長からは訓練の内容で呼び出されることは度々あったが、まさかアンジェロ長官までいるとは思っていなかった。


 正直、ねちねちにしているのであまり得意じゃない。つまり、いま目の前にいる二人ともオレが得意としない相手。さっさと用事を済ませたいところだが。


「ルーカス。お前、クビ」


「はい?」


 言われた瞬間、オレの頭は真っ白になった。

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― 新着の感想 ―
手を叩く音や、重厚な扉を開けた瞬間の“シーンが変わる”感覚に思わず引き込まれて、まるで自分が騎士団の一員になったかのようなワクワクを味わえました! ルーカスと大男の掛け合いも、教官らしい余裕と、でもど…
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