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Lacrima EX MACHINA  作者:
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第6話 Six Feet Under⑩

「……アルフレード? エイミー? エンナ?」


 口からこぼれ落ちた声は、自分のものかどうか判別すら付かないほどに掠れていた。頭の中から血の気が引いて行き、指先がどんどん冷たくなっていくのが自分でも分かる。

 もう、その身体に命がないのだと、一目見たら分かった。分かりたくなんかないのに、ハッキリと、分かってしまった。


 どうして、こんなことになってる? なんで三人が死んでる? それに、どうしてエイミーは腹を裂かれてる? どうして、エイミーの腹の中には何も入っていないんだ?


 それは抜き取られたと言うよりも、まるで最初からそこになかったかのように、ライアンの目には映った。

 うっと胃が痙攣して、朝食べたものが戻って来かけるのを、口を押さえることでなんとか堪える。自分でも何でそうしようと思ったのかは分からない。分かりたくなんかない。

 ただ、今目の前のこの現状から、目を逸らすことができない。


「あら? カーライルくんじゃない」


 そんな声が聞こえて来て、弾かれるように顔を上げる。そこにはいつも通りの――いや、いつもよりも心なしか清々しい微笑みを浮かべたレクターが立っていた。


「これ、あんたがやったのか?」


 呟いた声は、自分でも分かるぐらいに震えている。それに気が付いていないかのように、レクターはふふっと楽しげに笑った。


「あーあ。せっかくここまで順調だったのに」

「……順調、だと?」

「そうよ。せっかく実験も後少しで終わったのに……ほんとーに残念」


 言いながら髪留めを外したレクターの様子があまりにも退屈そうで、その様子にライアンは無意識に奥歯を強く噛んだ。


「残念だかなんだか知らねぇけどな……質問に答えろ。これは、てめぇがやったのかって訊いてんだよ」

「ふふっ何を怒ってるの? 偉大な一歩の為には犠牲は付きものじゃない。そうでしょ?」

「だからんなこと訊いてねぇって言ってんだろうがッ!! 質問に答えろっつってんだよクソ野郎!」


 ライアンがレクターの胸倉を掴んで叫ぶも、レクターは余裕そうな笑みを浮かべたままだ。その様子が、またライアンの怒りを助長して行く。


「……てめぇ、何がおかしい?」

「ほんっと、おかしなことを言うのね。アナタも私と同じでしょ?」

「あぁ? どう言う意味だそれ」

「カーライルくんはあの方からいただいた奇跡を使ってるのでしょう? なら、私のやったことの偉大さがきっと分かるはずよ」


 瞬間、エリックで戦ったムアヘッドの言葉が脳裏に思い起こされる。


 ――ハッ! 寝言は寝て言え虫ケラが! 貴様の持っているそれを手土産に、あの方から更なる寵愛を受け、ワシはより強い奇跡を得るのみよ!!


 レクターの言うあの方が、もしムアヘッドと同じ人物を指すのだとしたら。あの方ってヤツはなんて酷いヤツなのだろうか。いや、酷いなんてものじゃない。人の命を何とも思わない、ただのクソ野郎だ。


「……あの方が、言ったのか?」

「えぇそう! やっぱりアナタもそうなんじゃない! 私はね、我らが偉大な陛下から勅命を受けたの。腐敗のしない、永遠に生きられる身体を作れとね。まあ、結果的に内臓が不要な身体は作れたけれど、永遠の命はダメね。だってこいつの姉同様、ちょっと腹を裂いたら死んじゃ――」


 瞬間、ライアンの中で何かが音を立てて切れた音がして、ライアンは握っていた拳を勢いよくレクターの顔面に打ち込む。

 今ライアンが殴ったのは、友人が師と慕うような高尚な人間じゃない。人を人と思わず、ただの実験対象としか考えていない、醜い、ただのバケモノだ。


「なぁクソ野郎。てめぇらの言うあの方だかどの方だか俺は知らねぇけどよ、そいつはそんなに素晴らしいのか? アッサリ人殺してもいいぐらいに。でもな、どれだけソイツが素晴らしくても、てめぇがやったことはただの人殺しなんだよッ!!」


 勢いよく机にぶつかったレクターを無理矢理引き起こし、吠える。悔しさと怒りで、視界が涙でボヤけてくる。

 何でだよ。何でこんなヤツにアルフレード達が殺されなきゃならなかったんだ? なぁ、どうしてだよ。なあ?


「アルフレードもエイミーも……ここに住んでる人達はみんなてめぇのことを慕ってた! 慕ってただけじゃねぇ! こいつらはてめぇのことを信じて、頼ってたッ!!」

「……それが?」


 レクターは口元の血を拭うと、ライアンの手を払って苛立たしげに立ち上がった。


「私にはあの方こそ全て。あの方の人生が美しくなるのなら、私はなんだってやってみせるわ」


 ――ここにいるみんなが、人生は美しいものだって本気で信じてるからかもね


 こいつの言う“人生は美しい”と言う言葉は、エイミー達の信じるものとは違った。

 ただ、独善的で一方的な、おぞましい信仰から来るものでしかなかった。


「てめぇが……てめぇがその言葉を口にするなッ!!」

「うるさいわね。ちょっと静かにしてくれるかしら? せっかく分かり合えると思ったのに」

「てめぇと分かり合うだぁ? んなの無理に決まってんだろうが。俺はてめぇみたいな人殺しじゃねぇんだよ!」


 レクターは苛立たしげに首を鳴らすと、机の上に置いてあった拳銃をゆったりとした動きで構えた。その銃口は、真っ直ぐにライアンへと向けられている。


「本当はこんなものに頼りたくなんかないんだけどね。陛下は私に奇跡をお与えくださらなかったから。全く……アンタも私達と同じだと思って、優しくして損したわ」

「俺はそんな訳分んねぇ一派じゃねぇんだよ。てめぇはただの――」

「もうどうでもいいわ。さっさと死んでちょうだい」


 レクターはライアンの言葉を遮り、ガチャリと重い音を立てて撃鉄を起こした。


「ハッ、んな拳銃ごときで俺が殺される訳ねぇだろうが」

「アナタは、ね」

「あ? てめぇ何が言いた――」

「……ライアン?」


 ドサっと荷物が落ちる音ともに、そんなすっかり聞き慣れた声がライアンの名前を呼んだ。次の瞬間、向けられていた銃口がライアンから僅かに逸れていることを、悟る。


「いやああああああああああああああああああああああ――ッ!!」


 ライアンが後ろに向けて走り出したのと、フィーが絶叫したのは同時だった。

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