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Lacrima EX MACHINA  作者:
92/100

第6話 Six Feet Under⑨

「……遅くないかしら?」


 ライアンがアルフレードの家にある家財道具を修理していると、その様子をぼんやりと眺めていたイニがポツリと呟いた。


「あん? フィーか? アイツならまだ寝てんだろ」

「それは別にいいんだけど、私が言ったのはあの子のことじゃなくてアルフレード達よ」

「そうかぁ? 大方話し合いが長引いてるんじゃねぇか? これからの人生に関わってくることだし、そんなにすぐ終わるようなもんでもねぇだろ。気長に待ってようぜ」

「それはそうなんだけど……にしてもじゃないかしら?」

「まあ……言われてみりゃそうか?」


 ライアンが窓の外に顔を出すと、陽の光はすっかり頂上まで登っていて、何なら少し傾きつつあった。どうやらすっかり集中してしまっていたようだ。


「俺らも出発しねえとだし、流石にそろそろ出る準備はしとくか。イニ、悪いんだけどフィーを起こして来て貰ってもいいか?」

「はいはい。それじゃあ私はフィーを起こしてくるから、今修理してるやつだけでもさっさと終わらせちゃいなさいよ」

「わーってるって」


 どうせネジを絞めたら終わりなんだからとそんな生返事をしつつ、アルフレードから借りていたドライバーを手に取る。ドライバーの先をネジ穴に差し込むと同時に、ドライバーが嫌な音を立ててボキっと手元で折れた。


「やっべ! うわ……やっちまったぁ」


 最近買ったと言っていたのに、申し訳ないことをしてしまったと思った瞬間。ふと、胸の奥辺りがざわりと音を立てた気がした。


「……なんだ?」


 そんなことを呟いてみるものの、その違和感が消えることはない。むしろ、どんどんと強まって行く気さえしてくる。

 漠然とした不安感にライアンが頭を捻っていると、まだ眠そうに目を擦っているフィーがイニを抱えてやって来た。その様子を見ると本当に子どもにしか見えなくて、彼女がエイミーと同じ十八だと信じられなくなる。


「ふわぁ、みんなもう帰って来たのぉ?」

「いいや、まだ帰って来てな……なぁフィー。起きてすぐで悪りぃんだけど、急いで荷物持って来てくれ」

「え、何で? だってまだ帰って来てないんでしょ?」

「帰って来てはねぇんだけど、なんかこう、嫌な予感がする」

「嫌な予感? まあいいけど……」


 まだ若干眠そうなフィーに無理矢理支度させ、ライアン達はそのまま家を出る。


「ねぇライアン! 歩くの早いんだけど! ……何かあった? 顔、怖いよ」

「え? ああ、悪い。そのっ、何かあったって訳じゃねぇんだけど……」


 ざわざわと胸を掻きむしるような違和感に突き動かされるように足を動かしていたら、いつの間にか早足になっていたようだ。

 この違和感が気のせいであったらいいと思いながら歩を進めるも、やがて遠くから漂ってくる微かな血の臭いに、スンと鼻が鳴った。


「……気のせい、だよな」


 しかし、漂ってくる血の香りは確かに目的地から漂ってくる。瞬間、最悪のパターンが脳裏に過ぎるも、それを何とか頭を振ることで振り払う。


「何これ? 血?」


 レクター診療所の前で、フィーが鼻を摘んでポツリと呟いた。自分の気のせいだと信じたかったが、どうやら彼女も同じ臭いを嗅ぎ取っているようだった。


「様子見て来る。イニもフィーも悪いんだけど、ちょっとここで待っててくれるか?」

「えっ、あっライアン!」

「ライ! 一人じゃダメよ! 大人の人呼ばないと!」

「見てくるだけだから!」

「見てくるだけって……」


 そんなイニの呟きを無視して、ライアンは診療所へ足を踏み入れる。

 外は晴れているはずなのに。待合室にも日が差し込んでいるはずなのに。どうしてこの部屋はこんなに、暗いんだ――?

 一歩進む度に濃くなる血の臭いに、心臓が先程からどきどきとうるさい。心音で視界が揺れる。


 視界の隅に、横たわった足が見えた。気のせいでなければ、血の臭いはそこから漂ってくるようだった。


 いや、まだだ。まだそうと決まった訳じゃない。だから、落ち着け、深呼吸しろライアン・カーライル。

 もうすっかり見慣れてしまった扉代わりの木製ビーズを持ち上げた瞬間、目に飛び込んで来た光景に、ライアンの足が止まる。


 見慣れた人がいた。いや、見慣れていた人がいた。


「……なんだ、これ」


 ポツリと呟いたライアンの視線の先には、血溜まりの海の中で横たわっている、友人家族の姿があった。

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