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Lacrima EX MACHINA  作者:
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第6話 Six Feet Under⑦

「説得? アルフレードを?」

「えぇ。こんなことをお願いするのは筋違いだと分かってるんだけど……どうか、お願いします」

「いやいやいやいや頭上げてくれって。まだ受けるとも言ってねぇんだから。それにアルフレードを説得するって何をだよ」

「それは……」


 エイミーはどう言ったものかと口をもごもごさせるも、腕の中で優しく抱かれているエンナを見て、覚悟を決めたようだった。


「わたしはね、アルフレードはお医者様になるべき人だと思ってる。あの人は、優しい人だから。彼ならきっとステキなお医者様になると思うわ。でもね、そこにわたしが一緒にいると、彼はダメになる」

「ダメになるって……少なくともライアンよりしっかりしてるよ?」

「おいこらどう言う意味だそれ」


 ライアンがじっとフィーのことを睨むと、彼女はしまったとでも言うようにそっと顔を青ざめる。しかし、エイミーはライアン達の会話など聞いていなかったようで、俯いたまま言葉を続けた。


「あの人は、わたしとこの子のせいでここに囚われてるわ。レクター先生からも、あの人は優秀だって、医学を学ぶ為の学校にだって奨学金を貰いながら通えるだろうって会う度に言われるもの。それに、身内の贔屓目なしにあの人は努力家だしわたしと違って頭もいい……だから、だから……」

 ぽろぽろと、彼女の黒い瞳から溢れた涙がエンナの頬を濡らした。


「……あぅ」


 そんな小さな声とともに、突然の衝撃に驚いたエンナが目を薄らと開く。それでも泣き叫ばないのは、母親が泣いてると、幼いながらに悟っているからかもしれない。

 彼女の言葉に嘘はない。それは、まだ付き合いの短いライアンだって分かってる。実際アルフレードは毎日レクターのところに通い、医学を学ぶ傍らここに住む人達の怪我や病気を診たりしている。それに、どんな時だって笑顔を絶やさない。それは誰にだってできることじゃない。


「アルフレードはわたしとこの子のせいでここに囚われてる。エンナとは血が繋がってないのに、あの人は父になろうとしてくれてる。これ以上あの人の足枷になることは、もう嫌なのっ!」

「なるほどな……それが本音か?」

「……えっ?」

「訊きてぇことは色々あるが、まずはそこからだ。俺は嘘が嫌いだ。だから、あんたの本心と話がしたい」

「……それは」


 エイミーが逃げるようにぎゅっと身体を縮こませるのを、ライアンはただ黙って眺める。そんなライアンを、隣のフィーが勢いよく叩いた。


「痛ってぇなおい!」

「ちょっとライアン! 何てこと言うのよ!」

「じゃあ訊くがフィー。ここで本音聞かずにはいそうですかって言えんのか? そんな言葉でアルフレードが納得してくれると思うか?」

「それは……そうかもだけどさぁ」


「だろ? だから、俺らは知る必要があるんだよ。人を説得するってのはそんな生優しいもんじゃねぇんだよ」

「だとしても言い方ってもんが――」

「はいはーい、うるさいわよー。あんた達が喧嘩しても何にも始まらないんだから。でも、ライアンの言うことは一理あるわ。だからエイミー、教えてくれるかしら? どうしてそう思ったのか」

「……酷い話よ」


 エイミーはそうポツリと呟くと、まるで一つひとつ置き場所を確かめるかのように言葉を紡いでいく。


「さっきも言ったけど、エンナはあの人の子どもじゃないわ。もちろんわたしの子でもない」

「どう言うこと? エンナはエイミーとアルフレードの子じゃないの?」

「そう。フィーちゃんに前は二人の子って言ったけど、本当はわたしの死んだ姉の子なの。もちろん、本当の子どもだと思って育ててるわ。それは嘘じゃない」


 そう言ってエンナの頬を指先で撫でる彼女の表情に嘘の色はない。それどころか、本当の母と子にライアン達の目には映った。だからこそ、彼女の言葉が信じられない。


「姉はね、この子を産んですぐ流行病で死んじゃったの。レクター先生も手を尽くしてくれたんだけど、ダメだった」

「それは……」

「いいのライアンくん。ここじゃよくあることだから。悲しいけど、それは仕方ないって思ってる。レクター先生がいなかったら、きっと今頃もっと沢山の人が死んでたはずよ。だから、わたしはレクター先生を恨んでなんかないわ」


 エイミーはそこで言葉を止めると、じっとライアンとフィー、そしてイニへと順番に視線を向け、最後に腕の中の赤ん坊を見る。


「お姉ちゃんが死んだ時、どうしようって不安だった。産まれたばかりのこの子と二人で生きて行けるのかって。そんな私を支えてくれたのが、恋人だったアルフレードだった。彼はすっかり憔悴してたわたしに結婚しようって言ってくれたわ。君を支えるからって」


 ライアン達の知るアルフレードなら、そう言うはずだとすぐに想像ができた。真面目で優しい、人を思いやれるあいつなら、きっと。


「アルフレードはこの子を実の子みたいに大切にしてくれる。それはとても嬉しかったし、そのおかげでわたしも少しずつ回復したわ。でも……」

「だからこそ、その優しさがつらくなったってとこか?」

「えぇ……そうね。わたしは、彼を縛り付けてるのが苦しくなったの。アルフレードにはきっと輝かしい未来がある。きっと、こんな場所で終わっていい人じゃない。だから――」


「そう言う理由なら悪りぃけど、断らせてもらう」

「え?」

「ライアン!?」


 まさかそんなこと言われると思ってなかったのだろう、エイミーとフィーが揃って驚きの声を上げる。ただ、イニだけが何も言わずにじっとライアンのことを見上げてくれていた。


「酷いよ! だってエイミーはライアンがアルフレードを説得してくれると思って隠さずに言ってくれたんだよ!?」

「だからこそよ」


 ピシャリと、イニがフィーの言葉を遮った。そのことに、フィーはぐっと押し黙ってしまう。

 フィーの気持ちだって分かる。同じ立場ならライアンだってそう言っていたかもしれない。それでも、今の話を聞いて、馬鹿正直にはい分かりましたとは口が裂けても言えない。


「別に意地悪したい訳じゃねぇんだ。ただ、エイミーさんの思いを教えて貰ったからこそ、俺は自分の言葉で伝える必要があると思ったんだよ」

「わたしの言葉……?」

「あぁ。エイミーさんの思いを俺が伝えんのは簡単だ。でもな、それはどう足掻いても俺の言葉を通したエイミーさんの想いになっちまう。そんなんでアルフレードのやつが分かったって頷くと思うか?」


「それは……そう、かも」

「だろ? ちゃんとぶつかって話せばいいんだよ。それにエイミーさんとアルフレードなら大丈夫だと思うぜ。どうするかはしっかり話し合ってから決めればいいんじゃねぇかな」

「……うん、そうよね。ありがとうライアンくん。わたし、自分の言葉で話してみるわ」


 そう言って晴れやかな笑みを浮かべるエイミーの腕の中で、エンナが嬉しそうにキャッキャと笑う。

 それを見て、ライアン達もつられて笑ってしまうのだった。

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