後編
お付き合い戴けたら嬉しいです。<(_ _*)>
その夜、涌皇と共にアパートへ行った。
部屋が酷く荒れている。
「歩梦良! 」
振り返ると涌皇が缶ビールを放ってよこした。
散らばったゴミやら服やらを気にする事も無く踏みつけ、ソファに座るオレの傍に来ると涌皇は腰を下ろした。
オレは言った。
「最近のお前の行動には目に余る物がある」
涌皇はあっけらかんと答える。
「何が? 」
オレは飲み掛けのビールを溢しそうになる。
「自覚無いのか? 」
「だから、何が? 」
開き直ってる風でも無い。
「今日の事も憶えて無いのか?
ライヴをお釈迦にしたんだ、事務所はカンカンだ
今日の損害だけでも幾らだと思う」
涌皇は天井を見上げ言った。
「そんなのおれがいい曲書いてヒットさせればいいんじゃないの? 」
ぎらぎらした目をオレに向けて、涌皇は興奮ぎみに言う。
「歩梦良聞いて!
想像を越えた凄い曲が次々浮かぶんだ!
おれ達はもっともっと上昇できる! 」
オレはそう言って顔を輝かせる涌皇に何を言うべきか解らなくなった。
涌皇の奇行は酷くなって行くばかりだった。
同じフレーズをギターで1日中弾いてみたり、訳の解らない言葉を紙に乱雑に書き殴ったり。
お前は何処へ行こうとしている?
お前は怖く無いのか?
オレは怖い、とても..............。
新曲ができたと涌皇から連絡が入り、オレ達はスタジオに集まった。
少し遅れて、涌皇は酔っているらしくふら付いた足取りで現れた。
酔っているんじゃ無い、クスリでらりっているのだと直ぐに解った。
ギターを持って構えるが、涌皇は手が震えて演奏できる状態では無かった。
涌皇の頭の中で聴こえている音楽は、壊れた媒体では届かない。
もう涌皇は終わった。
ここに居る誰もがそれを確信した。
だからこそオレ達は必死になって涌皇を説得する必要が在った。
オレ達は涌皇の自滅を誰1人望んでなどいない。
「クスリを止めろ!
解らないのか?
お前は正気を失ってる! 」
アンプに座っていた涌皇は持っていたギターを横に立て掛けるとのろのろと立ち上がった。
「アイツが来るんだ........」
涌皇はそう言い残してスタジオを出て行った。
このまま放って置いたら取り返しのつかない事になる。
漠然とした恐怖が全身に広がる。
オレは条件反射のように涌皇を追い駆けていた。
信号待ちの涌皇に追い付いて、腕を掴んだ。
涌皇は酷く驚いて振り返る。
顔には恐怖が張り付いていた。
涌皇は反射的にオレの手を振りほどいて、赤信号を無視して道路に飛び出し危うく轢かれそうになる。
急ブレーキ音と共に車は止まり、涌皇は怯えたような表情を浮かべ運転手を一瞥して、右折待ちの車間を縫い雑踏の中に消えて行った。
オレは追い駆ける事もできずその場に立ち尽くした。
オレ達は涌皇の才能に甘え過ぎていた。
涌皇にどれほどのプレッシャーを1人背負わせていただろう。
だがメンバーの誰1人、涌皇の優れた曲に敵う曲を書ける者は居ない。
それでも涌皇を守る為に諦めてはいけなかったんだ。
壊れて行く涌皇を傍で感じていながらオレは何一つ涌皇の苦しみに目を向ける事が無かった。
涌皇に逃げる手立てすら許さず追い詰めていた。
雑誌のインタビューをを終えて、オレはその足で涌皇のアパートへと向かっていた。
スマホが着信を知らせる。
涌皇からだった。
出ると暫く無音で、何度呼び掛けても答えが無い。
切ろうとした瞬間、涌皇の声が
「母さんに逢いたい............」
そう言って切れた。
オレは嫌な予感がして走り出した。
勢い良くドアを開くと暗闇が室内に閉じ込められている。
奥へと突き進むと次第に目が慣れて来る。
ソファの背凭れに濃い人影が貼り付いている。
「涌皇? 」
慌てて照明を点けた。
涌皇が両腕を広げソファの背凭れに頭を預けていた。
手にはスマホが握られている。
オレはそろそろと近付いて行った。
恐ろしい想像が脳を支配して行く。
目を見開いた涌皇の顔が魂を手放した者特有の不気味さてこちらの視覚を圧倒した。
オレは涌皇の鼻の傍に耳を近付ける。
生きている手応えはオレの期待を裏切った。
ソファの上には注射器とクスリの残骸が散らばっている。
「涌皇!! 」
オレは涌皇の肩を掴んで揺する。
涌皇の頭がぐらりと垂れた。
そこからの記憶が途切れ、気付くとオレはソファに座り、膝に涌皇の頭を載せて髪を撫でていた。
眠るように目を閉じる涌皇。
空虚が胸から全身へと広がって行く。
何もかも遅過ぎた.............。
何もかも..............。
涌皇が着ているカジシャツのポケットから白いライターが零れ堕ちた。
死因は純度の高い薬物の過剰摂取。
彼は27歳だった。
27CLUB..............。
ロバート・ジョンソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン.................。
彼らは凝縮した音楽的才能とカリスマ性で人々を虜にした。
ソロモン王に捕らえられた27番目の悪魔、音楽と言葉を司るロノウェの契約者たち。
彼らは皆、27歳でこの世を去った。
涌皇は命と引き換えに天才的カリスマの称号を手に入れた.............。
fin
最後までお付き合い戴き有り難うございます。<(_ _*)>
27CLUBにしては、涌皇たちの成功は規模が小さいのですが、海さんインディーズ大好きなもので、わがままを突き通しました。笑
後編をいつアップしたものかと悩んでいましたが、温かい物は温かい内にと直ぐ投稿することにしました。
読んで下さり本当に有り難うございました❗ヽ( ̄▽ ̄)ノ
お身体大事に、また機会がありましたら宜しくお願いいたします。m(_ _)m