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運命消しゴム

作者: 清水進ノ介

運命消しゴム


 天使と悪魔が、議論していた。議論の内容は「人間とは善か悪か」である。当然のことながら、天使は善であると主張し、悪魔は悪だと主張した。しばらく議論は続いたが、このままでは結論が出ないと判断した両者は、とある実験を行うことにした。人間を一人選び、魔法の道具を授ける。それを人間が使うかどうかによって、結論を出すことにしたのだ。


 その魔法の道具とは「運命消しゴム」と呼ばれているものだ。紙に誰かの名前を書き、この消しゴムでそれを消すと、名前を消された人間は、この世からきれいさっぱり、消えてしまうのである。これから死ぬのではない。生まれてこなかったことになるのだ。その人間が誕生したという運命を消してしまうのだ。全ての人の記憶の中から、消えて無くなるのだ。


 そしてそれを授ける人間は、今まさに失望の底にいる、一人の青年だった。信じていた友に裏切られ、多額の借金を肩代わりすることになってしまった。天使と悪魔はその青年の夢の中に現れ、彼に「運命消しゴム」の説明をした。青年は生気のない表情で、ぼうっと消しゴムを見ている。悪魔はここぞとばかりに、青年が消しゴムを使うように誘惑を始めた。


「さぁ、この紙切れに、お前を裏切った友の名を書け。そしてそれを消すんだ。そうすれば、お前の借金はなかったことになる。お前に借金を背負わせたそいつが、そもそも生まれなかったことになるのだからな」

「おやめなさい。自分の利の為に、他人を消してしまうなど、なんて恐ろしく、愚かなのでしょうか。青年よ、私はあなたがそんなことをしないと信じています」


 青年はしばらく消しゴムを見つめていたが、悪魔から紙きれを受け取ると、そこに名前を書き始めた。天使は慌ててそれを止めた。名前を書いただけなら、まだそこで手を止められる。だが消しゴムで名前を消してしまえば、もう後戻りは出来ないのだ。しかし天使の説得も虚しく、青年は消しゴムを持ち、紙に書いた名前を消してしまった。天使は悲しみ顔を手で覆い、悪魔は大笑いし、青年の肩を「よくやったぞ」と叩こうとした。しかしそこに、すでに青年の姿は無かった。 


「こいつ、こいつは、なんてことをしやがったんだ」

「あの青年はどこへ?なにが起きたのですか?」

「こいつが消した名前は、友の名じゃねぇ。……自分の名前を書いて、消しやがったんだ」


 天使と悪魔の議論は、永遠に続くだろう。 


おわり

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― 新着の感想 ―
青年の行動の理由は色々と考えられますね。 人間とは善か悪か。やはりそう簡単に結論づけられるテーマではないようです。
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