アダマンタイトのツルハシ
ほどなくして、飛行船は緊急着陸した。
まだ海を渡る前だったので、結局のところ皆、陸路でサルーテに帰ることとなった。
「新大陸には行けず残念でしたね。ま、幸い怪我人も出なくてよかったですが」
イズミはそんな呑気なことを言っている。
「でも、こっから神樹まで引き返すのって、かなりの路銀が要りますよ? ゴア商会は補償してくれるんでしょうか?」
俺はそう指摘せずにはいられなかった。
「まぁ、ゴア商会の皆さんも大変でしょうから、そこは訊かないでおきましょう」
イズミはそんなことを言った。お人好しもいいところだ。
とはいえ、暗殺者の魂は生贄に捧げられてしまったので、死亡者一名という結果になったわけだ。処女飛行でこんな事件が起きるなんて、ゴア商会にとってもいい迷惑だろう。
◇
なんとかサルーテに着くと、街の人々に歓待された。
「さすがはイズミ様! ドラゴンをも落としてしまわれるとは!」
「乗客を全員救ったそうですね、さすがです!」
道行く皆がイズミを褒め称える。なんだか全部イズミの手柄になっている気がするが、実際大活躍したのでまぁいいとしよう。
「イズミ・レッドフォードどの。ちょっとお話よろしいですかな?」
突然、黒のローブを羽織った大男が立ちふさがった。
「錬金術師ギルドのアルクスどのですね! お久しぶりです」
どうやらイズミの知り合いだったようだ。
錬金術師ギルドの中に案内されると、ひときわ豪華な内装の応接室に通された。
「今回の飛行船を墜落から救って頂き、誠にありがとうございます。一言では足りず、なんと感謝したらよいか分かりません」
「いえ、お気になさらず」
とは言いつつもイズミは満足げだ。ルクレツィアの功績も褒めてやってくれ。
「あの飛行船には我々も技術提供していましてね。それが墜ちたとなれば威信にかかわるところでした。そこで、感謝の印として、このツルハシをお贈りしたいのです」
ツルハシ? 鉱山労働者でもないのに?
「ありがとうございます。このツルハシ、アダマンタイト製ですね? 神樹についてよくご存知でいらっしゃる。ツルハシでも使わなければ、神樹の樹皮は削れませんからね」
そうだったのか。
「アダマンタイト製と見抜かれるとは、さすがのご慧眼。6000年は劣化しませんので、どうぞ使ってやってください」
それって、耐用年数6000年ってことか? もはや減価償却の必要がない備品だ。土地みたいなものか。
と、俺はツルハシの会計処理について一瞬考えてしまっていた。
いかんな。
異世界に来たからには、そんな小難しいことは考えたくないものだ。