イズミの本領
「苗木を! 苗木を回収してください! そうすれば魔力を繋げます!」
イズミが叫ぶ。
魔力を繋ぐというのが何を指しているのかは分からないが、必勝の策であることは間違いなさそうだ。
俺は支配人の近くに落ちていた水槽を持ち上げ、運ぼうとする。だが、重い。見た目以上に重すぎる。
これでは渡す前にアデオダトスにやられてしまう。
などと逡巡していると、ルクレツィアの蹴りが炸裂し、水槽が割れた。
「どうせ毒液の水槽です。割っても問題ないでしょう?」
「そうだな」
ルクレツィアは機転が利くな。本当になんで初級冒険者なんだろうな?
すぐさま苗木の生長が始まり、イズミのもとへと根が伸びていく。
「可哀想に。もう大丈夫ですよ」
イズミは愛おしそうに根を抱き留め、そして唱える。
「【たとえ私から離れても、あなたは再び戻るでしょう。あなたは私たちを和解させてくださいました。その恵みと慈しみによって。私は自らの罪を逃れようとは思いません。ですがあなたの慈愛は、私の罪に優るでしょう】」
イズミは、語りかけるように何かの呪文を唱えた。話し言葉と判別がつかない。そんな、温かみのある詠唱だった。
「樹法【黒縛り】」
すかさず枝が四方八方に伸び、壁の穴を塞いでアデオダトスの全身を縛った。
目にも留まらぬ早業。
これが、イズミと神樹が連携したときの本領というわけか。
神樹の枝はアデオダトスの右腕をひときわ強く縛り、魔剣アルマースを取り落とさせた。
すかさずルクレツィアがアルマースを回収する。これで安心だな。
だが。
「こんなもので私を縛ったつもりか?」
アデオダトスは黒い魔力のようなものを放ち、枝を粉砕した。こいつ、まだ力を残していやがったか。
「いい加減寝ててください!」
ルクレツィアが組み付き、首を締めあげるが、アデオダトスは不敵に笑うのみ。一向に効いていない。
ルクレツィアは魔力の余波で弾き飛ばされた。
「伝説の英雄相手に無茶です! 下がっていてください!」
イズミが俺にルクレツィアを預け、前に出る。
「【あなたの前では、闇も暗くなく、夜は昼のように明るい。闇も光も同じである】」
イズミが唱えると、神樹の枝が烈しく発光し始めた。
「樹法【聖星一閃】」
凄まじい閃光が走り、アデオダトスは船の最後尾まで吹き飛ばされた。