天撃の魔術師
「はい、暴れない。動くと骨が折れますよ?」
ルクレツィアは襲撃者の上に乗って腕を締めあげていた。
「俺を拘束しても無駄だ。仲間がドラゴンを並走させている。俺を解放しなければこの船を落とすことだってできるぞ?」
襲撃者はそんな脅し文句を吐いてきた。
窓の外を見ると、確かに翼を広げたドラゴンが横を飛んでいた。
「そうですか。では、ドラゴンの方を落としましょう」
「なに? そんなことが……」
「光魔法【天撃】」
一瞬、辺りが暗くなった。次の瞬間、落雷のような閃光と爆音が響き、ドラゴンは墜落していった。
これがルクレツィアの実力か。
想定以上だな。
「お前、まさか【天撃】のルクレツィアか? あのドラゴン狩りが趣味の?」
「はい、それ以上は言わせません」
ルクレツィアは腕に力をかけ、襲撃者の口を封じた。
「うぐっ、」
そのまま襲撃者の意識は刈り取られた。
「あれ……もしかして死んでる?」
ルクレツィアは驚き、飛び退く。
「まさか殺したのか? ルクレツィア、それはいくらなんでもやり過ぎだ」
「いやいや、そんな力込めてないですって! なんで?」
ルクレツィアも困惑している。
「古の秘法です。生贄を捧げることで、古代の英雄を呼び出すもの。この魔法陣を見てください」
イズミは襲撃者の胸元に刻まれた紋章を指す。襲撃者の死と引き換えに、強力な戦士を呼び出すということか。
「これ、召喚魔法だったんですか?」
「気づきませんでした」
俺とルクレツィアは間抜けな反応を見せることとなった。
やがて襲撃者は起き上がり、虚空を掴むような動作をする。すると、一振りの剣がどこからともなく現れた。
「マズいです。あれは魔剣アルマース。古代の英雄、アデオダトスの魂を召喚したようです。逃げますよ! 勝ち目はない!」
そう叫んでイズミは俺たちを床に伏せさせた。
次の瞬間には、魔剣から放たれた斬撃が、頭上を通り過ぎていった。そして飛行船の壁に大穴を開けた。
危なかった。動きが遅れれば首が飛んでいたな。
とはいえ、穴から空気が漏れ出している。早めにどうにかしないと全員酸欠になる。