初級冒険者
【護衛任務クエスト:上級冒険者募集】
冒険者ギルドにそんな張り紙を出させてもらった。
とはいえ、募集状況は芳しくない。
「残念ですが、上級冒険者の皆さまは新大陸に出払っておりまして、ご期待には沿えないかと……」
受付嬢が申し訳なさそうに言う。
事情を訊くと、新大陸の地球へのゲートに向かう商人は大勢いるらしく、皆その護衛任務を受けているそうだ。
「イズミさん、一足遅かったですね」
「そんなことはありません。この【天撃の魔術師】ルクレツィアがいれば、安全な空の旅が送れることを保証しましょう」
そんな声がしたので振り返ると、小柄な少女が立っていた。頭には三角帽。いかにも魔術師といったかんじだ。
「ルクレツィアちゃん、あなたまだ初級冒険者でしょ。新大陸に行くにはまだ早いわ。薬草採取や猫探しでもしてなさい」
受付嬢はそう言って宥めるが、ルクレツィアは不服そうだ。
「ゴア商会の飛行船ともなれば、警備体制はバッチリでしょう。私が出る幕はないかもしれません。ですが万が一のとき。そう、例えば飛行船が墜落しそうになったとき! 飛行船を消し飛ばし、被害を最小限に留めることができるのは私だけです!」
物騒な考えの持ち主だな。相手にしない方が良さそうだが、イズミは目を輝かせている。
「天撃……あなた、【天撃】が使えるのですね! あのドラゴンさえも失神させるという……」
イズミはルクレツィアに走り寄り、手を握った。
「そ、そうですが……」
「操さん! この娘採用しましょう! 申し分ない火力の持ち主です!」
「いや、そんなよほどの緊急時にしか役立たない魔術師なんて要らな……」
俺がそう言いかけると、俺の身体は宙を舞っていた。
まさか、素手の技をかけられた? 速すぎて感触すらなかった。
「一通り体術の心得もあります。これでも不満ですか?」
こいつ、物理もいける魔術師か。
「いや、不満はない。よろしく頼む。ルクレツィア」
「こちらこそ!」
こうして、俺たちは破格の値段で冒険者を雇うことに成功した。初級冒険者なので、報酬は安かった。もっとも、なぜこれだけの逸材が初級なのか、疑問ではあるが。