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地球への門

 そうして、神樹講は事実上の株式会社となり、巡礼社たちの出資を広く浅く募ることに成功した。


 借金も返せたので、経営は順調だ。


 そんなとき、俺は驚くべきことを言われた。


「旅人さん、いえ、天堂操さん。あなた、異世界人ですよね?」


「え、なぜそれを……」


「我が一族、レッドフォード家には古い言い伝えがあるのです。開祖サンサ・レッドフォードは、地球という異世界から来て、この樹を植えたと」


 地球の存在は知られていたのか。わざわざ誤魔化す必要もなかったな。


「でも、なぜその開祖と俺が同じ世界から来たと?」


「だって、開祖の肖像と同じスーツ姿なんですもの」


 イズミは奥の掛け軸を指差した。


 確かに、俺と同じような格好のビジネスマンが描かれていた。サラリーマンが水墨画で描かれているので、違和感しかないが。


「なるほど。意外とこの世界は、地球との縁が深いのかもしれないですね」


「そのようです。あなたがこの世界に来たということは、世界の境界が曖昧になっているのかもしれません。他にもこちらに来る方がいるでしょうね」


 現世の嫌なことを忘れられる天国にでも来たような気分でいたが、案外そうもいかないらしい。

                  ◇

 一週間後。


 経営が順調なので、そろそろこの世界らしい服でも買おうと、近くの街に出かけてみた。スーツは早々に着るのをやめたが、イズミの家には男物がなかったので、買わざるを得なくなった。


「いやぁ、出資証券とはいいものですね。こうして眺めているだけで、巨大組織の主になったような気がします」


 イズミは証券の匂いを嗅ぎながら、そんなことを嬉しそうに言う。


「今は少し大げさですが、いずれは本当に巨大組織になると思いますよ? それこそ、あの飛行船を造ったゴア商会のように」


 俺は向こうを指差す。


 ゴア商会の敷地には、相変わらずデカい飛行船が鎮座していた。


「それはいくらなんでも高望みでは?」


「そうでしょうか? 神樹には数多の可能性が秘められていると思います。決して高望みではないと思いますよ?」


 樹液だけでなく、木材としてもかなり使えそうだしな。もっとも、イズミがそれを許すかは分からないが。


「号外! 号外! 異世界への門が繋がったってよ!」


 そんな声が聞こえたので、新聞を受け取ってみる。


【異世界地球へと繋がるゲート、新大陸に出現。使節団を送る計画が進行中】


 などと書いてあった。


 なんだよ。


 折角現世の喧騒から逃れてスローライフを送ろうと思ってたのに、よりによって地球と繋がってしまうとは。面倒だな。


 せめて俺たちの商売の邪魔にならなければいいのだが。


「ゴア商会が飛行船を飛ばすらしいぞ」


「なんでも行き先は異世界へのゲートだとか」


 そんな声が聞こえてくる。


 もう新大陸に進出しようとしているのか。気が早いな。


 確かに、面倒な条約締結や法整備が進む前に、さっさと商売を始めてしまった方が有利だ。


 だが、それは向こうとて同じ。


 平和条約が適用される前に侵略・開発してしまえば、この世界の富を効率よく手に入れられる。


 戦争の予感がするな。


 適当にこの世界らしい服を買って戻ると、世界樹のうろに手紙が置いてあった。


「これは……! 飛行船の初回飛行への招待状ですね!」


 中身を読んだイズミが興奮気味に言った。


 ついにあれが飛ぶのか。文明の遅れているこの世界の飛行船とはいえ、興味がある。

「オークションも開催されるようです! かつて魔神をも討った魔剣アルマースに、不死鳥の羽根、ヒュドラの鱗に……世界樹の苗木!?」


 イズミは驚きの声を上げる。


「なぜ世界樹の苗木が? 株分けなどしたことはないはず……まさか勝手に採取された?」


「世界樹ってのがあるんですね。この神樹よりも大きいんですか?」


「何を言ってるんです? この神樹こそが世界樹ユグドラシルですよ?」


 そうだったのか。色々な呼び方があるんだな。


「これはなんとしてでも落札せねばなりません! 軍資金を用意しますよ!」


「幸い、出資を募ったおかげで資本金なら現金であります。行きましょうか」


「えぇ! そして出品した不届き者に制裁を加えねばなりません!」


 などとイズミは息巻いている。


 荒事に巻き込まれなければ良いのだが……心配だな。


「傭兵か冒険者でも雇います? 多額の資本金を持ち歩くとなれば、護衛は必要です。それに保険にも……」


「保険とは?」


 そんな制度はまだないのか。この世界には。


「ひとまず、冒険者ギルドに依頼を出しましょう! 魔術か体術の心得がある人を募集するんです!」


「そうですね、早速ギルドへ向かいましょう!」


 かくして、俺たちは明日、サルーテへ再び向かうことにした。


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