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第3話 勇者パーティにステハラされました

 朝陽は顔をしかめた。聞き慣れない複数の声がやかましかったせいもあるが、それよりも、ジメッとした空気に漂う雑巾のような臭いに耐えられなかったからだ。


 朝陽の気も知らず、四種類の声が大喜びしている。


「うおおお! まさか本当に召喚術を成功させちまうなんて!! エルマ! やっぱりお前は天才だな!」

「嘘! まさか成功するなんて思ってなかったわよ? これ歴史書に載っちゃうんじゃない?」

「いやもうお前の名前はすでに歴史書に載ってるだろ」

「ああ、そうだった。ふふ」


 地響きのような野太い声と、やたらと艶めかしい声がそんなやりとりをしている一方で、オタク女子が大歓喜しそうなイケメンボイスと、萌えキャラのようなほわほわした女の子の声が会話しているのも聞こえた。


「ああ、エルマが俺のパーティにいてくれて良かった! 俺はなんて幸せ者なんだ!」

「さすがエルマちゃんだねえ~。サルルも頑張らなくっちゃ!」


 薄目を開けた朝陽は、すぐにそっと目を閉じた。

 胸毛ボーボーのマッチョ。赤髪の美女。金髪碧眼のイケメン。三角帽を被った美少女。

 蝋燭の火で照らされる古い石造りの建物の床には、公園で見たものと同じ魔法陣が描かれている。

 見知らぬ人たち、見知らぬ場所のはずなのに、彼らが何者か、ここがどこかがぼんやりと把握できてしまった朝陽は苦笑を漏らした。


 彼らはおそらく冒険者かなにかのパーティだろう。マッチョは格闘系のジョブ、美女は魔法使い、イケメンは剣士、美少女も魔法使い。そしてこの場所はどこかの地下室で、魔術的な儀式が行われる場所。

 昨晩夜更かしをしてプレイしていたMMORPGでも、こういうキャラメイクをしているプレイヤーがいるし、こういう場所も存在する。


 朝陽はコツコツと自身の頭を軽く叩く。


「なんだ、白昼夢か。最近ゲームしすぎだしな。気を付けないと」


 白昼夢から覚めようと深呼吸を繰り返す朝陽に、四人が気さくに話しかけてくる。懸命に無視していた朝陽だが、女子たちにくっつかれて思わず目を開けた。


「ちょっ、ちょっと、なんですかさっきから! や、やわらか……じゃなくて、やめてください!」


 突然大声を出した朝陽に、空想上の人物はポカンと口を開けた。

 しかし、金髪イケメンはすぐに笑顔を取り戻し、激しいスキンシップで朝陽を歓迎する。


「やあやあ、異世界人! こちらの世界へようこそ! 俺はこの国の勇者、マルクスだ。ところで、俺たちは明日魔王を討伐する予定なんだが、君も一緒に来てくれないか?」


 わらび餅の感触に思考を奪われていた朝陽は、勇者の言葉をすぐには理解できなかった。


「……はい?」

「実はメンバーの一人が昨晩失踪してね……。すごく困っていたんだよ。それで、藁にも縋る思いで召喚術――異世界から優秀な人材を呼び寄せる非常に難しい術を試してみたら、なんと君が来てくれた! これは運命だ! 君は俺たちのパーティに加わるべく、ここに来たんだよ!」


 状況が呑み込めず茫然と立ち尽くしている朝陽を置いてきぼりにして、勝手に事態が進んでいく。

 勇者に指示を出された赤髪の魔法使いは、勢いよく巻物を広げ呪文を唱えた。すると白紙だった紙に文字と数字が浮かび上がった。

 なぜか朝陽は、巻物にあらわれた日本語ではないはずの文字を読むことができた。レベルや体力、魔力、耐久力など、ゲームでよく見る文字列が並んでいる。


「これってもしかして……僕のステータスだったりします……?」

「よく分かったな、異世界人!」


 ちなみに、勇者曰く、召喚術には異言語の習得術も練り込まれているため、召喚された人は瞬時に召喚先の言語を理解できるようになるらしい。


 エルマと呼ばれていた赤髪の魔法使いは、巻物を覗き込み「うっわ……」と渋い声を漏らす。


「レベル二十五で体力百五十……? ゴブリンより体力ないけど大丈夫かしら……。しかも魔力は〇……。魔力を持たないタイプのヒト族ね……。マジかあ……」


 続いて勇者も朝陽のステータスに目を通し、小さくため息を吐いた。


「力が五十だと? レベル二十五なんだよな。桁が一つ少ないんじゃないか?」

「で、でもっ、器用さは百だよ! 平均以上だよ!」

「俊敏さと耐久力が著しく低いがな! ガッハッハ!」


 なんとか朝陽のステータスを褒めようとした耳が尖った少女サルルを、マッチョ――ダイアが一蹴した。


 そして訪れる沈黙。


 朝陽は両手で顔を覆い羞恥心に震えた。ふと、朝陽の履歴書を見た面接官に鼻で笑われたという、就職活動時代の苦い記憶を思い出したのは、間違いなく勇者たちのせいだ。


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