序章
この国には、魔女の棲む森と恐れられている森が存在する。
魔女の棲む森、そこは、この世の何処よりも危険だともいわれるのだ。
そう謳われてきたそこには、言われのとうり魔女が棲んでいる。
そう言われ始めたのは大分昔。
あの出来事の後からであろう。
昔、そう言っても、ざっと100年足らずだろう。
では100年前、ここ、フルールで何が起こったか。
そもそも、フルールは別名、花の国と呼ばれるほど、華やかな国であった。
国民同士の仲もよく、王家の者たちも、国民を良く考えて物事を行っていた。
そんな理想の国。
そんな国の、おかしな噂が広まったのが、全ての始まりなのであろう。
”花の国の王が、逃走したらしい”
そう、他国で騒がれ始めたのが、150年前。
誰もが信じ難かったその噂は、瞬く間に広がった。
皆、嘘だろうと、世界を乱そうと考える輩の仕業だろうと考えた。が、
フルールの王が逃走した事は、まぎれもない事実である。
他国の者が信じられない信じられないと騒ぐ中、フルールの王家の者たちは、その事実を受け入れた。
此処に王がいないことはまぎれもない事実。
しかし、なによりも、王家の者達しか知らない秘密があったのだ。
フルールでは、王家の中で王になれるのは、ある一族だけと決まっていた。
そして、その一族とは、ブラウワール一族である。
その一族は、体にその証をもち、酷い運命が決まっているのである。
証をもつ一族の人間は、その逃げ出したくもなる運命を抱えて生きてい行くのだ。
それを知る王家の人間は、全てを受け入れることしかできなかったのだ。
そして、王になれるブラウワールの者は、既にいなかった。
王は、子孫を残さず、去っていったのだから。
まず、王の逃亡。
これを初めの災厄としよう。
それから幾月。
花の国とも呼ばれてきたフルールは、その面影すらなくなり始めていた。
国を支える王はいなくなり、そして、王になれる唯一の一族もいない。
これでは、いつしか国は滅んでしまう。
そう考えた王家の者たちは、考えた。
考えて考えて、ようやく、一人の者が意見をだした。
”エレズィーの聖女に頼もう”
エレズィー。
それは、この世の者とは異なる者たちのことを言う。
簡単に、異端者である。
エレズィーを見ると死んでしまう。
そんな言い伝えがある程に、恐れられている者たちなのだ。
そして、反対に、
エレズィーは神に一番近い存在である。
と、拝まれる存在でもあるのだ。
エレズィーは、いくつかの分類にわかれている。
吸血鬼・悪魔・人魚・聖女・・・・
それらすべてに、個々の特徴があり、棲む場所も違ってくる。
吸血鬼や悪魔は、治安の悪い所。
聖女や人魚は、美しい所。
それにあてはまる国の近くに、森をつくり、生息しているのだ。
その森は、どんなエレズィーの森でも、とても美しいとされている。
そして、それはその容姿にも言えることである。
どのエンズィーも、人間をはるかに超える美しさをもっている。
しかし、その森に行こうとするものも、姿を見ようとする者もいないのだ。
それは、古くからの言い伝えによるものだろう。
エンズィーを見れば死ぬ。
それが、人間の恐怖心を掻き立てるのだ。
”あんなとことに行けるのか?”
案の定、その意見は反対された。
しかし、なによりも国の事を考える発言者は、自分が行くといった。
勿論、自分に害がないと判明したからには、止める理由はない。
”では、行ってくれるか?”
他の者の言葉に、満足げにうなずいた彼は、数日後、エレズィーの森へと国を出た。
そして、それから幾月。
戻ってこない男に、王家の者も半ばあきらめていた頃だ。
彼が国へ戻ったのだ。
どうだったかと聞けば、快く引き受けてくれた、と答えた。
では、何故こんなにも時間がかかったのかと聞けば、それは言うなと言われたと答えるのだ。
不思議には思ったが、彼も無事に帰ってきた、そして、国も救われる。
そう思うと、そんな事はどうでもよかった。
エンズィーは、国にあった森に棲むことになり、その森から一歩もでてはこなかった。
しかし、エンズィーとはいえど、寿命は人間と同じ。
そこで、それまで森にいたエンズィーが死ぬと、違うエンズィーが来ることになった。
そのことは、国民にも伝わる。
国民は、恐れていたエンズィーが森にいることに、少しの不安を抱えた。
しかし、また昔のようになるならば。と、そんな事、気にしなかったのだ。
それから一年。
何事もなくその月日が流れ、国の治安も良くなってきた時だ。
一年前、エンズィーの森に行った男が、亡くなったのだ。
それも、外傷はなく、病気でもなかったのに。
突然の変死。
それは、男だけでは終わらなかった。
次々に変死が続き、最初の変死からまた一年。
それはようやく収まった。
しかし、その傷跡は大きく、国民の大半が亡くなった。
そして、国民は、この大量の変死を、エンズィーの仕業だと噂した。
噂というのは、本当に広がりやすいもので、また、たくさんの国にまで広がった。
それから、エンズィーは聖女にもかかわらず、魔女と呼ばれ、フルールの其の森は、魔女の棲む森として恐れられたのである。
そう呼ばれ始めたのが、100年前なのである。
それから100年。
現在のフルールは、治安もよく、もう一度、花の国と呼ばれた美しい国に戻ったのだ。
なにも変わりのない、美しい国。
魔女が棲むと呼ばれる、其の森さえなければ。