7.国王、竜騎士隊長に国の命運を託す
「はあ……はあ……」
国王は大声で叫ぶと、再び椅子に座り、頭を抱えて項垂れる。
「万事……休すか……」
「父上。フィリス嬢の向かう先は予想ができますか?その国境に急いで連絡を入れればまだ間に合うかも知れません」
だが国王は、リチャードの声にも顔を上げず、ボソボソと呟くように答える。
「向かう先は恐らくスピニーヤ王国のブロワ伯爵領。フィリス嬢の母方の祖父の家だ」
「だったら急いで連絡を」
国王は項垂れたまま静かに首を横に振る。
「遠く離れた者と連絡する魔法や魔道具は存在しないと言う事になっている。だから、他国の者が頻繁に通る国境には、そのような連絡手段は置いていないのだ」
「そんな……」
もはや王国にはフィリス嬢を止めるどころか追い付く術すら無かった。
「国王様!ご無事ですか!?」
その時、立派な白い鎧に身を包んだ金髪イケメンの騎士が飛び込んで来た。
国王は顔を上げると、その騎士を見て目を見開いた。
「ロベール竜騎士隊長?今まで何処に?」
ロベールと呼ばれた男は、国王の前まで来ると、片膝を着いて頭を下げた。
「はっ。今朝がた南の方の森で魔物の動きに異常が見られたとの報告を受け、調査に向かっておりました。そしてつい今しがた戻ったのですが……」
そして顔を上げ、心配そうに国王を見上げた。
「何があったのですか?何故、王都の三分の一が崩壊しているのですか?」
「そ、それが……」
国王はこれまでの経緯を簡単に説明した。
「そうですか。ご子息の処刑を自ら宣言しなけれならなかったのは、さぞお辛かった事でしょう。何と言葉をお掛けしたら良いか分かりません」
処刑台に送られたのが替え玉だと知らないロベールの辛そうな表情に、国王も辛そうな顔を作り「もう良い。王としては例え家族でも法を破れば罰しなければならない」などと、お決まりのセリフを口にした。
「ところでロベール。其方、今まで王都の外にいたと言う事は、お主の部隊のドラゴンは無事なのだな?」
「はい。一頭も欠けていません」
それを聞いた国王は文官に紙とペンを用意させ、急いで命令書と謝罪文を認めた。
「疲れている所を悪いが、これをブロワ伯爵領に続く街道の国境門に届けてくれ。一つはフィリス嬢を丁重に保護する命令書で、もう一つは退学および国外追放処分の撤回書だ。後これはフィリス嬢に渡してくれ。此度の謝罪とアルベルトは責任をとって処刑となった旨が記載されている」
「はっ。確かにお預かりしました」
ロベールはそれらを受け取ると、踵を返して食堂を後にした。
「ふうっ、どうにか間に合いそうだな」
国王が安堵の息を吐いた。
ロスチャイルド伯爵の屋敷から国境門までは馬車で一月ほどの距離だ。
彼女が爆裂魔法を放ってからロスチャイルド伯爵の屋敷の者から彼女の到着が知らされるまでは五時間ほど掛かっていた。
いくら彼女の移動速度が尋常でないとしても、二時間ほどで到着する竜騎士より早く国境門を通過する事は無いだろう。
後は、ロベールが無事にフィリスを連れ帰っ来るのを待つだけだ。
「国王様。申し訳ありません。フィリス嬢は私が国境門に到着するより三〇分も前に国境を越えたそうです」
四時間後。息せき切らして戻って来たロベールは、国王の前で片膝を着くと、開口一発、そのように謝罪した。