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5.全員、驚かされる

 王城前。急遽組み立てられた処刑台にアルベルト王子と学院長が連れてこられた。

 二人とも、既に激しい暴行を受けたのか、顔が腫れあがり元の人相が分からない状態だった。


 二人は、処刑台に設置されている柱にそれぞれ立った状態で後ろ手で縛られた。

「処刑は今から一時間後だ!それまで好きにして良いぞ!但し、柵を超えた者は魔法で焼き尽くすから気を付けるように!」

 兵士の一人がそう言うと、民衆が一斉に足元の瓦礫を手にして、彼等に投げつけ始めた。

 彼等は、一時間後まだ息が有れば、首を跳ねる予定となっている。


 その頃、王城の裏側では第一王妃が最後の別れを惜しんでいた。

「アルベルト……いえ、これからはジラール侯爵がメイドに手を出して生ませた隠し子、アルバートです。貴方は王族でもなければ、爵位が与えられる立場でも無くなりますが、挫けず生きていくのよ」

 アルベルトはみすぼらしい庶民服を着させられ、ジラール侯爵の使用人に引き渡される。

 王族や高位貴族が責任をとらされて処刑になる場合は、こうやって罪人を身代わりにして、こっそり逃がすのが上位貴族達の間では公然の秘密となっていた。

 学院長もその事を知っていたので、彼の首だけで許すと国王に言われた時、涙を流して喜んだのだ。


 そんな彼等を他所に、食堂では小さな子供たちを下がらせ、国王とリチャード、そして大臣たちが今後の事を話し合っていた。

「父上。父上の責任は問われる事になりますが、フィリス嬢の退学と国外追放は兄上が父上を騙して王命を下させたとして、撤回する事は可能でしょうか」

 リチャードの提案に、国王は渋い顔をする。

 明らかな虚偽報告があって間違った王命を出してしまった場合は、撤回される事もある。その場合は虚偽報告をしてきた者とその家は厳しく罰せられるが、嘘を見抜けなかったとして国王が上位貴族達からの厳しい批判に晒される事になる。

 今回の場合は、虚偽報告をして者が王子であり、その王子の家が王家だ。

 その上、その失態により王都が半壊しているので、貴族達の批判はかなり厳しいものになるのは目に見えていた。

 その事を考えると、国王は胃の当たりがキリキリと痛むのを感じた。


「そうです、国王様。レベル999のフィリス嬢が他国に渡る脅威を考えれば、王命の撤回はやむを得ないと思います」

「上位貴族達からの厳しい批判はあるでしょうが、レベル999の令嬢を取り込めば、彼等を黙らせる事も出来るかも知れません」

 大臣たちが次々とリチャードの意見を後押しする。


 迷う必要は無かった。

 レベル999と言う前代未聞のバケモノ令嬢を他国に渡すのは愚の骨頂であり、彼女が他国に渡った時点で、その国は嬉々として、この国を焼け野原にする準備を始めるだろう。

 分かっている。分かっているのだが、それを口にするのは気が滅入るのだった。


 その時、兵士の一人が入って来た。

「国王様。ロスチャイルド伯爵の王都邸に行ってきました」

「おお。それで、フィリス嬢は登城に応じてくれたか?」

 この兵士は、王都が半壊した直後に国王の命令で、彼女に登城するように伝えに行ってたのだ。

 半壊から何時間も経ったのは、ロスチャイルド家の王都邸が遠かったからではなく、街が破壊されて瓦礫の山となっている中、瓦礫を乗り越えて目印も無い中を進むのが困難だったからだ。

 因みに、ロスチャイルド家の王都邸は彼女が張った防御結界に守られて無傷だった。


「それが、フィリス嬢は自分が国外追放になったと屋敷の者に伝えると、手早く荷物を纏めて屋敷を出たとの事です」

「屋敷を出ただと!?」

 兵の言葉に、全員が顔色を変える。


「父上!彼女の行き先はロスチャイルド伯爵領です。今から早馬で追いかければ間に合うかも知れません」

「そ、そうだな。騎士団長。馬でフィリス嬢を追いかけるように手配してくれ」

 国王の指示に、騎士団長は暗い顔をした。

「そ、それが、現在王城には馬が一頭もいません」

「「「「!!」」」」


 先のフィリスの攻撃で人的被害は無かったが、彼女の結界に守られなかった家畜などは壊滅していた。


「父上。確か、王城の裏側……王都の南側は破壊を免れています。そこから馬を調達すればどうでしょうか」

 リチャードの提案に、国王の顔が明るくなったが、次の騎士団長の言葉に再び顔を暗くする。

「王子。たぶん既に手遅れです。王都の大店の店長や、貴族達が馬をかき集めて王都から逃げる準備をしている頃でしょう」

 全員が深く溜息をつく。


「国王様」

 その時、側近の一人が食堂に入って来て、国王に何やら耳打ちをした。

「何ぃ!?それは真か!?」

 突然の大声に、全員の視線が国王に集まった。

「国王様。何かあったのですか?」

 フィリス嬢が再び魔法を放ったか、それとも暴徒化した国民が制御不能になったか。これ以上の事態は勘弁してくれと思いながら、大臣の一人が国王に質問した。


「ロスチャイルド伯爵領に入り込んでいる者から緊急通信が入り、先程フィリス嬢が領邸に戻り、自分は国王命令により国外追放になったと伯爵に伝えたらしい」


「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 王都から馬車で一月は掛かるロスチャイルド伯爵領からの信じ難い連絡に、全員が驚きの声を上げた。

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