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4.王子、責任を取らされる

「お前。兄に向かって、何だその口の利き方は!」

 弟に罵倒され、アルベルトはリチャードに怒りを向けた。

 だがリチャードはそんな兄の怒鳴り声は無視して、言葉を続ける。

「兄上、考えてみて下さい。王族を騙した罪で退学と国外追放処分になった者が、他国でどのような扱いを受けるか」

「罪人がその後どうなるかなど、知った事か!」

 既にフィリスに対しては冤罪である事が確定しているのだが、先程から自分を見下した態度を取るリチャードに、頭に血が上ったアルベルトはそこまで頭が回らなかった。


「兄上のその態度が王都半壊を招いたのですよ!良いですか?フィリス嬢があのような魔法を行使するように追い込んだのは兄上です!自覚して下さい!」

 叫びながらも、自分の兄がここまで愚かなのかとリチャードは嘆いた。

「だから!あれはあの女が嫌がらせで……」


「リチャードが正しい。少しは考えろ!」

 尚も食って掛かるアルベルトの言葉を制したのは、脱力から復帰した国王だった。

「父上?……リチャードが正しいとは……?」

 父親から自分の方が間違っていると言われ、アルベルトの頭は一気に冷えていく。

 それを見て、やっとまともに話を聞いてくれると思ったリチャードは、軽く溜息をつくと説明を続けた。


「良いですか?王族を騙した罪で国外追放された者は、他国に行っても社交界には出られません。他の御令嬢達から後ろ指を指され、誇張した噂が飛び交うからです。そうなると、頼った親戚の家から出られず、結婚なども望めません。それは分かりますね?」

「あ、ああ、それがどうした?罪人などそんなものだろう」

 ここまで言って、何故分からない?その場の大人たちとリチャードは心の中でそう毒づいた。


「確かに罪人なら自業自得です。でも冤罪であり、それを証明する方法がフィリス嬢にはあったのです。だから彼女は、自分がレベル999である事を証明したのです。自分の未来を守るために」

 そこまで聞いて、アルベルトはハッと顔を上げた。

「そうか!あの女は自分がレベル999である事を証明して、退学と国外追放を撤回させようとしたんだな!」

 自信満々にそう叫ぶアルベルトに、リチャードはとうとう怒りが爆発した。


「そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 初めて聞く弟の渾身の叫び声に、アルベルトは目を見開いてたじろいだ。


「どこまで馬鹿なんだ、お前はぁ!!冤罪を証明したからと言って、国王命令をそう簡単に撤回できるわけ無いだろうがぁぁ!!国王命令はそれだけ重いんだ!!そんな天下の宝刀をお前は軽々しく使ったんだぞ!!」

 一気にまくし立て、ゼェゼェと肩で息をする。

 そんなリチャードに代わって、国王が説明を続ける。


「フィリス嬢も、国王命令がそう簡単に撤回できない事は分かっている、だから彼女は自分の力と、我々王族の無能さを証明したんだ――」

 そこで、国王は一度深く溜息をついてから言葉の続きを口にする。


「――王都にいる他国の間者達に」


「他国の間者が王都にいるんですか!?」

 信じられないと言う顔をするアルベルトを見て、国王は再び頭を抱えたくなった。


「兄上。『草』と言って何世代にも渡ってこの国に住みつき、自国に情報を伝えている者達が沢山いるんです」

「ほ、本当か?」

 アルベルトにとって衝撃の事実だった。

 だが、彼を見るこの場の大人たちとリチャードの蔑むような視線で、それが事実である事が分かったと同時に、知っていて当然の事を自分が知らなかったのだと悟った。


「ちなみに、我が国の『草』も他国で暮らしていますよ」

「!!……そ、そうだったのか」

 ガックリと項垂れるアルベルト。

 そんな彼を、リチャードは軽蔑しきった顔で見下した。

「今頃、各国の間者達がフィリス嬢の獲得に動いているでしょうね」



 その時、食堂に門番の一人が血相を変えて入って来た。

「国王様!民衆が暴徒と化して倒壊した表門に集まっています!これ以上、抑えられません!」


 それを聞いて、国王は「分かった」と短く言って、再び深いため息をつく。

 そして、顔を引き締めると、この場の全員に聞こえるように告げた。

「一時間後、この騒動の首謀者を表門前で公開処刑をすると伝えよ!」


 国王の宣言に、門番は「はっ!」と返事をし、踵を返して出て行った。


「父上。首謀者って……あの女を処刑するのですか?」

 おずおずと訊ねるアルベルトに、国王は冷たく言った。

「お前が全責任を取ると宣言したのだ。お前が首謀者に決まっているだろうが」

 国王の言葉に、アルベルトの顔から血の気が引いた。

「ま、まさか、冗談ですよね?父上?父上!!」

 国王にすがり付こうとするアルベルトを、近衛兵達が取り押さえる。

「なら、お前が表門に行って、財産や住む家を失って怒り狂っている数千人もの民衆をなだめて来るか?」

 国王は、凍り付くような冷たい視線を向けてそう言った。


 表門に集まっている民衆の怒声は、ここまで響いて来ている。

 アルベルトは首を横に振って、国王にすがるような目を向けた。

「そこは、王城の兵達に鎮圧するように命じて……」


「連れて行け」

 ここで民衆を鎮圧などすれば、民衆と衝突して多数の死者が出る。

 そんな事も分からないアルベルトを、国王が連れ出すように命じる。


「父上!お願いです、お考え直し下さい!」

 暴れるアルベルトを近衛兵が引きずって、食堂から出て行った。

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