27.森の真の王
――キャハハ
――キャハハハハハ
不気味な笑いが森の中でこだまする。
その度に、俺の体中の血が凍り付いたような感覚に陥る。
冗談じゃない。
俺は最強なんだぞ。ドラゴンだって……いや、ドラゴンは流石に無理だが、ベヒーモスですら倒せるんだぞ。
それが何で、赤子のように一方的にやられるんだ?あり得ないだろ?
――キャハハ
うわっ!なんか近付いてないか?
いや、気にし過ぎだろう。声もまだまだ遠いし、何よりも奴の生息域からかなり離れている。
い、一応、穴に身を潜めて、隠密魔法を掛けている。仮に奴がここまで来ても、見つかる事はないはず。
「みぃつけたぁ♪」
ひぃっ!
な、何で?
さっきまで全然遠くに聞こえていたよな?声。何で今、奴はここにいるんだ?
ああ、恐怖で視界が霞む。
いや、俺が高速で森の中を走っていたのか。
怖い、怖い、怖い、怖い。
何なんだ、あのバケモノは。
その時、ふと、視界が止まる。
何だ?何が起こっている?
「つかまえたぁぁ♪」
ひいぃぃぃぃ!
奴に掴まれていたのか。
脚を踏ん張るがビクともしない。
それに掴まれている所がとても痛い。
こうして俺は、奴の巣に向かって引きずられ行く。
俺は自分の死を覚悟した。
◆ ◆
「ママぁ、ワンちゃん♪」
「フィリス。野良犬なんて連れて来ちゃダメって言ったでしょ?」
フィリスが、一匹の大きなケルベロスの尻尾を掴んで中庭まで引きずって来ていた。
ケルベロスが地面に爪を立てて必死に抵抗しているため、その爪痕が森から続いていた。
「でもママ。とおっってもカワイイいよ。ほら」
そう言ってケルベロスの背中に乗ると、右側の頭をグイッと母親の方に向けて、その口角を引っ張り無理やり笑顔を作った。
ケルベロスは恐怖で涙目になるが、それに気付いていないフィリスは楽しそうにキャハハと無邪気に笑う。
「フィリス、そんな事したらバッチイでしょ?いいから森に捨ててらっしゃい。もうすぐ午後のお茶の時間よ。お茶菓子はカトルカールよ」
「わあっ♪カトルカール大好きぃ♪」
フィリスが満面の笑みを浮かべる。
その時、魔物の気配を感じた。
フィリスを含むロスチャイルド家の館の面々は、一斉に上空を見上げる。
そこにはワイバーンがこちらに向かって飛んで来ているのが見えた。
「もう、コウモリきらい」
フィリスは頬を膨らませると、ケルベロスから降りて、その体をガシッと掴んだ。
「あっちいけぇぇぇ」
ドンッという音と共に、ケルベロスの巨体は上空のワイバーンに向かって飛んで行った。
そのスピードに、ワイバーンは全く対応できず、次の瞬間、両者は空中で激しくぶつかり、そのまま森の中に落下していった。
「ママァ、ワンちゃん、すててきた。おやつたべよう♪」
ニコニコ笑顔で走って来たフィリスに、彼女の母親はクリーンの魔法を掛けて汚れを落とすと、フィリスの手を引いて歩き出す。
「分かったわ、だけどちゃんとフォークとナイフを使うのよ。この前みたいに手で掴んだら取り上げるからね」
「うっ……ううぅ、つをつける」
これが、三歳児フィリス嬢の日常風景だった。
フィリスはチョットやんちゃな幼女でした。




