表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

24.魔族、更なる異次元進化する

「「おい、貴様!!ふざけんな。これは何だ!?」」

 魔族の二つの頭の怒声に、フィリスは再び頭を下げた。

「本当に申し訳ありません」

「「申し訳ないじゃねえよ。元に戻しやがれ」」

 魔族は彼女の胸倉を掴みたい気持ちでいっぱいだったが、頭を上げない彼女に、彼の手は所在無げにさ迷った。

「勿論すぐにでも、お戻ししますわ。だけどそれには問題がありまして……その……」

「「何だ?ハッキリ言え!?」」

 魔族が続きを促すと、フィリスは頭を上げ、上目遣いですまなそうに彼を見た。

 本人は無自覚なのだろうが、その仕草の可愛らしさに、魔族の二つの頭は顔が熱くなるのを感じた。

「えーと、ですね。その……貴方の首を一つ切り落として(ホーリー)ヒールを掛けると元に戻せるのですが……えっと……」

 言いながら目を泳がせていたフィリスは、やがて意を決したように魔族の二つの頭を見て言った。

「どちらの頭を落とします?」


 随分勿体ぶっていたので、とんでもない事を言い出すのではないかと身構えていた魔族は、そんな事か、と肩の力を抜いた。

「「聞くまでもねえ。『右|左』だ」」

 言い終わった途端、魔族の二つの頭は互いを睨みつける。

 途端、二人の間に火花が散る。比喩表現ではなく物理的に。

 二人の間で魔力が衝突した事により生み出された静電気だ。


「おい、貴様!俺のコピーのくせに俺と入れ替わろうって言うのか!?」

「何を言うか!貴様が俺のコピーだろうが!」

 二つの頭は互いに頬をグリグリと押し付け合い、喧嘩を始めた。

 そして魔族の両手は祈るように胸元で握りしめられていた。どうやら左右の頭が自分に近い方の腕を動かして組み合っているようだった。

 頭部と腕の絵面のギャップに、フィリスは思わず笑みをこぼしてしまったが、不謹慎だと思いコホンと咳払いした。幸い、フィリスの笑みは魔族の目に入らなかったようだ。

「あのぉ……一つの頭を二つに割ったので、どちらもオリジナルなんですけど」

 フィリスは申し訳なさそうにそう言ったが、二つの頭は彼女の言葉が耳に入っていないようだった。


 そうやって、暫らく二つの頭が言い争いを続けていたが――

「そうですわ。いい事を思いつきましたわ♪」

 フィリスがそう言うと二つの頭は動きを止めて、目を見開いて彼女に顔を向けた。

「おい!何を思いついたんだ?頼むから実行に移す前に教え……」

 右の頭が言い終わる前に、フィリスがえいっと言う掛け声と共に大剣でその頭を縦に割った。

「聖ヒール♪」

 一瞬で生まれる三つ目の頭。


「「「「「「……」」」」」」

 その光景に、唖然とする二つの頭と『竜の天敵』の面々。


「どちらの頭を残せば良いのかを決めて貰うために、中立的な真ん中の頭さんを生み出しました」

 とても良いアイデアでしょ、と言わんばかりの顔でフィリスはそう言った。


「さあ、真ん中の頭さん。どちらの頭が残るべきかしら」

 フィリスの問いに、真ん中の頭は自信満々に答えた。

「残すのは俺、真ん中の頭だけだ。後は切り落としてしまえ」


 真ん中の頭の回答に、フィリスは言葉を失い呆然とするが、この事態を予見していた『竜の天敵』のメンバーは溜息を吐いた。

 そして魔族の二つの頭は、と言うと……

「貴様!何をぬかす!」

「お前は俺達のどちらを残すかを選ぶためだけに生み出された存在だろうが!」

 真ん中の頭をポカポカと殴っていた。


「痛っ!痛たたっ!こら、止めろ!」

 動かす腕が無い真ん中の頭は、ガードする事もできずに殴られ続けるしかなかった。

「自由に動かす腕も無いのに、俺達を切り落とせだと!?自分の立場を分かってるのか!?」

 左の頭のそのセリフに、呆然としていたフィリスはハッと顔を上げた。


「そうですわね。真ん中の頭さんは動かす事ができる手足が無くて可哀そうですわね」

 フィリスがそう言うと、魔族の三つの頭が血相を変えて彼女を見る。


「「「おい!何を考えているか見当がつくが、それは止めろ!いいか?フリじゃないからな!マジで止め……」」」

「えいっ」

 やや、ゆっくりとした口調に似合わず、目にも留まらぬ速さでフィリスが大剣を振るうと、魔族の手足が縦に三等分された。

「聖ヒール♪」

 そしてそれは、それぞれの手足として再生する。


 三つの頭と六本の手足を持つ、驚異的な再生力を持った生き物の誕生である。


「お三方……いや……お三頭?で、ゆっくり話し合って決めて下さい。そして結論が出ましたら、ファルターニア王国のロスチャイルド伯爵領までお越しください。私が責任をもって元に戻して差し上げますわ。ロスチャイルド家の名に懸けて」

 フィリスはそう言って深々と頭を下げると、良い事をしたと言う顔で踵を返して歩いて行った。


 それを見ていた『竜の天敵』メンバーは、ハッとして、慌てて彼女を追いかけた。

 この状況に便乗して、この場から立ち去るためだ。


 後に残された魔族は、もはや人間とは言えない自分たちの姿に、暫らく呆然と立ち尽くすのだった。


 数か月後。とある魔族の街に三つの頭と六本の腕と脚を持った怪物が巨大なナメクジを引き連れて現れたとか現れなかったとか。

フィリス>キングギ〇ラと言う言葉が脳裏を過ぎりましたわ。何かしら?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 阿修羅の誕生秘話だったw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ