2.王子、尋問される
「さて、詳しい話を聞こうじゃないか」
国王、ルイン七世が方眉をピクピクと痙攣させなが、アルベルト第一王子に説明を求めた。
ここは王城の謁見の間……では無く、執務室……でも無く、食堂の隅だ。
三時間前の破壊魔法により、城の表側が崩れ落ち、裏側の王族の部屋以外で辛うじて壁と天井があるのが、この食堂だった。
その食堂で、運良く壊れなかった椅子をかき集め、国王と王妃、そして国王の子供たちと大臣たちが座っていた。
だが、王族の中でアルベルト王子だけは座る事を許されず、国王の前で片膝を着いて頭を垂れていた。
そしてアルベルトの横には、青ざめた顔の学院長が同じく片膝を着いていた。
「そ、それが……父上。その……何て言いますか」
目を泳がせて言い淀むアルベルトに、国王は予め釘を刺しておく事にした。
「ちなみに、お前とフィリス嬢との会話は、彼女の幻影魔法で王都中の者が知っておる」
「なっ!?何ですか、それは!?」
アルベルトが驚いたように顔を上げ、目を見開いた事から、彼等にはあの映像は見えていなかったようだ。
「お前、予の名を騙って、あれだけの魔法が使えるフィリス嬢を退学処分にして、国外追放を言い渡したな」
睨みつける国王。その眼力にアルベルトの額からブワッと汗が噴き出してきた。
「お、お言葉ですが、彼女の退学と国外追放の許可を出したのは父上で……ひっ」
国王から溢れる怒気が一気に強まり、アルベルトは言葉を途中で切った。
「ああ、昨夜、予が書類にサインをしたな。だがその時、お前はこう言ったな。王族であるお前の前でレベル測定で不正を働き、実際のレベルより高く見せかけた者がいると。明らかに王族を欺く行為のため、王国の法に則り、その者は退学にしたうえ国外追放にしたい、と」
「そ、そうです!彼女は王族である私を騙したのです」
必死で言い訳をするアルベルト。しかし、その隣にいる学院長は血の気の引いた顔を床に向け、ガタガタと震えている。
「そうか、騙したか。なら、証拠はあるのだろうな?」
国王は基本、書類にサインをする時に、提出された資料の詳細情報や証拠などを自ら調査したりしない。そう言うのは書類を提出した者が事前に行うものであり、書類偽造の疑惑が浮上した時に専門部署が調査するだけだ。
「レベル999なんて、あり得ません。あれは絶対に何らかの不正を働いているのです」
アルベルトの言葉に、国王が顔を真っ赤にする。
「お前の感想など聞いとらん!」
国王の怒鳴り声に、アルベルトの肩がビクンと震えた。
「レベル測定時にフィリス嬢が幻影魔法を使ったのなら、精神系や光学系の得意な教師が気付くはずだよな。彼等は何と言っておったんだ!?」
「え……えーと、その……幻影魔法の類を使われた形跡は無い……と。で、でも……」
「もう良い!」
アルベルトの言葉を遮った国王は、今度は学院長に目を向けた。
「学院長」
「ひっ!お、お、許し下さい!」
いきなり土下座をし、床に額をこすり始める学院長。
「……まだ何も言っていないが……」
その怯えっぷりに、国王の怒りが霧散していく。
「学院長。レベル測定の魔道具は、精霊魔術師が精霊と契約して精霊コアを宿してもらう事により機能する魔道具だよな」
「は、はいっ!その通りであります!」
「そして、その魔道具に手をかざした者のレベルは、周りの者には数字として見える形で、そして精霊魔術師には精霊コアから直接伝わるのだよな」
「は、はいっっ!」
「それで?フィリス嬢のレベルを測定した精霊魔術師は、彼女のレベルをいくつだと言ったのだ?」
「許し下さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
学院長は、更に激しく額を床に擦り始めた。
床には血が広がり始め、更に透明な液体も広がり始めた。それが涙かヨダレか。国王はその透明な液体から目を逸らし、深く考えない事にした。
「精霊コアから伝わる情報は、精霊魔術師が契約している精霊を介して術者に伝達されるので、他者が介入する余地は無いのだったな。それで、精霊魔術師はフィリス嬢のレベルをいくつだと言ったのだ。答えよ」
冷たく、凄みのある国王の声に、学院長の動きがピタリと止まる。
「……レベル999」
そして、か細い声でそう言った。