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17.帝国、令嬢を見失う

「フィリス嬢はメクレンブルク伯爵の屋敷を後にしただと!?」

 ゲルーマ帝国の皇帝、ルドルフ・フォン・キュヒラーは部下からの連絡に驚きの声を上げた。


「どう言う事だ?たった今、フィリス嬢が伯爵の屋敷に着いたと連絡が入ったばかりだぞ?誤報だったのか?」

 帝国は情報伝達に力を入れていた。

 その為、他国に抜きんでて優れた通信用魔道具や通信魔法陣を揃えていた。

 そして、数十年前からスパイ育成機関などで優れた人材を育成していた。


 それらの投資が実を結び、今では大陸で一番の情報収集能力を有していた。

 その情報収集能力は非常に高く、最初のファルターニア王国の王都半壊の時には僅か十五分後にはフィリス嬢の能力も含めた事の詳細と共に、彼女の姿のイメージが魔道具を使って送られて来ていた。


 その情報を受け取った皇帝と帝国のブレイン達は、そこまでの魔法の威力と精細さ、帝国に取り込むことができれば大きな戦力となるのは疑い無しと、急ぎエージェント達に連絡し、慎重に彼女とコンタクトを取ってスカウトするように指示した。

 そう、慎重にだ。

 ファルターニア王国の一件で、彼女は一国を敵に回す事になっても怯まない事は明白だった。

 それでいて、上空に王子とのやり取りを映し出すなど、とても頭の切れる令嬢である事が分かる。

 あの映像とその後に上空に放たれた魔法により、彼女の国外追放処分が間違っていた事が王都民だけでなく他国のスパイ達に伝わった。

 結果、王都民達の怒りの矛先が王族に集中すると共に、彼女を引き込もうと各国が動き出したのだ。


 その後、彼女は祖父を頼ってスピニーヤ王国に向かったとの連絡を受けたが、あの色ボケ王が彼女を正当に評価などできないと帝国は確信していた。

 案の定、レオポルド王は彼女を怒らせ、王都を消滅させた。


 次に彼女が頼るのは、アルフォンソ・モラ・アラゴンの妹の嫁ぎ先。つまりここゲルーマ帝国だ。

 皇帝は妹の嫁ぎ先であるメクレンブルク伯爵の屋敷に雇われている自分達の息の掛かったメイドに連絡を入れ、更に他のエージェント達にも連絡して内外から屋敷を見張らせていた。

 そして今日、彼女が伯爵邸に到着したとの連絡を受け、皇帝達は大いに喜んだ。

 後は彼女とコンタクトを取り、望みを聞くだけだ。

 彼女が帝国に取り込まれるのが嫌なら、こちらから報酬を用意するなどして、彼女が納得する方法で帝国に手を貸して貰うのでも良かった。

 とにかく彼女を怒らせず、気持ちよく帝国の力になってもらう事が大事だった。


 そんな事を考えて次の指示を出そうとしていた矢先、エージェントから再び連絡が入り、彼女はもう屋敷にいないと言う。

 彼女が、自分の親族であるメクレンブルク伯爵に身を寄せるだろうと信じていた皇帝達は、想定外の事態に思考が追い付かなかった。


「それが、メクレンブルク伯爵とお会いになって、伯爵夫人の兄君であるアルフォンソ・モラ・アラゴンからの手紙と共に彼の近況をお茶を飲みながら楽しくお話された後、旅の途中だからと言って屋敷を後にしたそうです」

「旅の途中!?どこに行くと言っていたんだ!?」

 目を血走らせて叫ぶ皇帝に、伝令はやや引き気味に答えた。

「それが、『今は言う事ができない』とだけ……」

「くっ……」


 皇帝は悔しそうに唇を噛み、数秒間考えを巡らせると、顔を上げて周りの者達に伝える。


「フィリス嬢の捜索範囲を広げるんだ!各都市の冒険者ギルドにも連絡して、情報を集めさせろ!」



      ◆      ◆


「な……何が起こってやがる……」

 帝国北西部のとある街。

 そこは山の(ふもと)にある小さな街だった。

 特産物などは無いが、魔物の素材を求めて冒険者達が集まっていいるため、そこそこの人口となっていた。

 この山、鬼龍山には獄炎龍の亜種が住んでいて、人間たちはそこに近付かない為、付近の森は魔物の巣窟となっていた。そのため、そこから溢れて出る魔物が後を絶たず、冒険者達の需要は絶える事が無かった。


 彼等は、これからもずっと変わらない日々が続くと思っていた。

 昨日までは。


 昨日の午後、鬼龍山の山頂付近でいきなり大きな光が発生したかと思ったら、暫らくして轟音と衝撃波が街全体を襲った。

 冒険者ギルドからの緊急依頼で、調査のためにSランク冒険者が派遣された。

 依頼を受けたSランク冒険者は、準備を整えて翌早朝、調査に向かった。

 場所がドラゴンの住処だ。彼等の一人、魔術師に隠密魔法を掛けて貰い、一行は慎重に山を目指した。

 そして数時間掛けてやっと現場に到着した彼等は、目の前の光景に驚愕して身体が震えた。


 彼等が通ったルートからは分かり辛かったが、山の反対側がごっそりと無くなっていた。

 そう、大きく(えぐ)れていたのだ。

 かつて、そこにあったとされる獄炎龍の住処諸とも。


「まさか……魔王がここまで来たと言うのか?」

 メンバーの一人がそう呟くが、その答えを持っている者は誰もいなかった。

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