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16.令嬢、姿をくらます

「フィリス嬢はまだ国境を越えていないのか?」

 ルイン七世はファルターニアの王城の執務室で、無意識に貧乏ゆすりを繰り返していた。


 レオポルド王が失脚してから既に三日。

 ゲルーマ帝国との国境門を監視させていた者達からは、未だに彼女の発見報告は来ていなかった。


 ここ、ファルターニアの王都では、フィリスに破壊された家屋の復旧作業が始まっていた。

 とは言え、破壊された家屋の数が数千にも及ぶため、上位貴族や大店が優先されていた。

 王城もその中に含まれていて、最優先で修復が行われていた。

 それまでの間、客間に机を置いただけの臨時の執務室で、国王は山積みになった書類の整理に追われていた。


「彼女はあの日、アラゴン家の屋敷に戻るとすぐに出立したと、向こうの『草』から連絡を受けている。なのに、なぜ未だに国境に現れないのだ?」

 その時、臨時執務室のドアが開き、従者の一人が慌てて入って来た。


「国王様!フィリス嬢が二日前、メクレンブルク伯爵家の屋敷に現れたとの連絡が入りました」

「何!?もうすでにゲルーマ帝国に入っているだと!?」

 ルイン七世が立ち上がった勢いで、机の上のコップが落ちて中の水が高価な絨毯の上に撒かれた。


 メクレンブルクは、彼女の祖父アルフォンソ・モラ・アラゴンの妹の嫁ぎ先だ。


「どうやって国境を越えたのだ?いや、それはどうでも良いか。取り敢えず早急に向こうの草に連絡して、彼女のファルターニア王国での追放処分は撤回された事を伝えるんだ」

 その事を彼女に伝えておけば、ゲルーマ帝国でも追放処分になった時は、次の彼女の行き先にファルターニア王国を選択肢に入れて貰える。

 最も、実力主義の帝国が易々彼女を手放すとは思えなかったが。


「いえ、それが……」

「何だ?」

 言い淀む従者に、国王は続きを促す。


「フィリス嬢は屋敷に立ち寄り、挨拶をすると、三時間後には屋敷を後にしたそうです」

「何だと!?」

 フィリスがメクレンブルク家を頼る可能性があるとは思っていたが、さすがに着いてすぐ出発するとは思わなかった。

「くっ……急ぎ、ゲルーマ帝国の草たちに連絡し、国境を見張らせろ!」

 ここで彼女の足取りを見失うと、探すのがとても困難になる。

 向こうの諜報員達を総動員してでも足取りを追う事が先決だった。



 その頃、スピニーヤ王国のトラスタマラ家の屋敷では……

「フィリスは既にアラゴン家の屋敷を出ただと?」

 新国王は完全に後手に回っていた。



      ◆      ◆


「嘘じゃない。ここに大きな屋敷が建っていたんだ。お貴族様の屋敷を小さくしたような、立派な作りの」

 フィリスがゲルーマ帝国に入ってから九日。帝都から西に馬車で八日ほどの距離にある森の中で、狩人が調査に訪れた冒険者達に必死に説明していた。

 必死になるのも無理はない。

 冒険者ギルドに虚偽の報告をしたと認定されてしまうと、かなり厳しい罰則が待っているからだ。


「ああ、信じるよ」

 冒険者パーティーのリーダーの言葉に、狩人が顔を明るくした。


「こんな森のど真ん中に、草木の一切生えていない不自然な空間があるんだからな。それに、これを見ろ」

 そう言って、地面をダンダンと強く踏み鳴らす。

「かなり高位の魔法で固めてある。何かがここに建っていた可能性が高い」


 その後も、森の中に立派な家が建っているとの報告があちこちから寄せられるが、ギルドが冒険者を調査に向かわせると、そこには広い空間が広がっているだけだったとの報告が届けられるだけだった。


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