13.レオポルド国王、降ろされる
「お、お前ら、俺を取り囲んで、あいつらから守れ!」
真っ青な顔をして部下たちに命令するレオポルド王。
だが、殺到して来る民衆の前に、そんな命令は焼け石に水だった。
フィリスほど圧倒的なレベル差があれば、武器も持たない民衆ではダメージを与えるどころか、一歩も動かす事は出来なかっただろう。
勿論、王国騎士は民衆に比べてレベルも高く、訓練も積んでいるため、素手でも十人や二十人相手でも負ける事は無いだろう。
だが、それは騎士達が戦う事が出来た場合だ。
騎士達が彼等の攻撃に応戦しようとすると、他の民衆が国王の元まで辿り着き、王を袋叩きにするだろう。
だからと言って、騎士達が体を張ってバリケードを作っても、レベル差が数十しか無い状況では、群がる数千人もの民衆を前に、そう長い間は持たないだろう。
万事休す。
国王や騎士達がそう思った時、民衆の後ろから大きな声が響いた。
「お前ら、道を開けろ!トラスタマラ侯爵家だ!」
彼等が振り向いた先には、鎧に身を固めた騎馬兵が並んでいた。
彼等は、フィリスと入れ違う形で西門だった砂山を乗り越えて王都跡地に到着したのだった。
今までは武器も鎧も無い騎士達が相手だったから、怒りに任せて殺到して来ていた民衆も、武装した騎士を見て一気に冷静さを取り戻し、慌てて道を開けた。
「おお……おお、我が弟よ。良くぞ来てくれた。早速だが、この愚民どもを血祭りにあげるんだ。見せしめだ。一人残らず殺すんだ!」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら叫ぶレオポルド王。
しかし、一番立派な鎧を身に付けている男が馬を進め、レオポルド王の前まで来ると鞘から剣を抜いて王に突き付けた。
「アルフォンソ。何の真似だ?」
アルフォンソ・デ・トラスタマラ。
現国王の腹違いの弟だ。
怯えと怒りが混じった顔を向けるレオポルド王にアルフォンソは冷たい目を向ける。
彼は国内の人望も厚く、その政治手腕や剣技も高く買われていた。
だが前王は、第二王妃の子の彼では無く、第一王妃の子であるレオポルドを次期国王に任命したのだった。
「兄上。貴方の他国の女性に対する非道な扱い。そして暗殺組織などを使った行為。全て王都上空に映し出されていた幻影で観させて頂きました」
アルフォンソが剣の切っ先を軽くレオポルドの首に当てると、彼はヒッと小さく悲鳴を上げる。
「貴方は正常な判断が出来ない状態であると確信しました。よって、貴方を王座から降ろし、その身柄を拘束します。お前ら、この男を取り押さえろ」
アルフォンソの指示に、数名の騎士が馬から降りてレオポルドを拘束する。
「き、貴様ら!何をやっているのか分かっているのか!?俺は国王……うぐっ」
レオポルドは猿ぐつわを咥えさせられ、騎士達に連れて行かれた。
「さて、お前たち」
続いて、アルフォンソは王の側近や騎士達に目を向けた。
「レオポルド王は気が触れていたと主張するなら、我らに協力してレオポルド王が行った非道な行為や犠牲者について教えてくれ。だがもし、レオポルド王は正気だ、真の王は彼だと言うのなら――」
アルフォンソの目が冷たく光る。
その氷のような視線に、レオポルド王に使えていた者達は息を呑んだ。
「――お前たちをここに残していく」
そう言って、アルフォンソは首を少し横に向けて、後ろの民衆に目を向けた。
ここに残される。
それは、国王不在のこの王都だった場所で、怒り狂った民衆の中に残されると言う事だ。
武器も鎧も無い彼等にとって、それは公開処刑に等しかった。
「こ、こ、国王は正気を失っていました!」
「わ、我々は国王が気が触れたと感じながらも、国王命令には逆らえませんでした!」
元々、人望も無く、すぐに癇癪を起す瞬間湯沸かし器だったレオポルド王を擁護する者は一人もいなかった。




