12.王都、消滅する
砂と化しサラサラと崩れていく王城。
やがて床が崩た。
ボスンと音がして、レオポルド王達は一階に積み上がっていた砂の上に落下する。
「こ、国王様!皆、早く国王様を助け出すのだ!」
騎士達が駆け寄って、砂の山に頭から突っ込んで半分埋まったレオポルド王を助け出した。
「な、何が起こっている?何だ、この砂は?俺達は何処かに飛ばされたのか?」
「いえ。この砂は、王城の成れの果てかと思います」
宰相の言葉に、レオポルド王は周りをぐるりと見渡した後、苛立たし気な顔を宰相に向けた。
「何をふざけている。王城が砂になったのなら、周りは王都の街並みのはずだろ?だが良く見ろ!遥か遠くまで砂が続いているではないか」
そんな王を見て、宰相はこめかみを抑えながら言った。
「ですから、王都の建物は全て砂になったのでしょう。フィリス嬢は言っていたではありませんか。彼女を殺そうとすれば、王都が消滅すると」
「いや、確かにそう言ったが、さすがに魔法でこれだけの事をするのは……ん?」
そこでレオポルド王は言葉を止め、宰相の頭上に目をやった。
「国王様。いかがされましたか?」
首を傾げる宰相に、レオポルド王はポツリと言った。
「お前、闇の死神のリーダーだったのか?」
「国王様?先ほど砂の上に落下した時、頭を強く打ちましたか?」
宰相は、心配そうにレオポルド王の顔を覗き込むが、国王は彼の頭上から目を離さず、その目線の先を指さした。
「いや。だってそれ……」
その指の先を辿って、頭上に目を向けてみたが、何やら文字らしきものが光っているのが分かるだけで、角度的に何が書いてあるかまでは分からなかった。
「闇の死神のリーダーって書いてあるぞ」
「なっ!?」
彼は慌てて、闇の死神のメンバーに顔を向ける……ような事はせず、顔を殆ど動かさずに同胞を視界の隅に収めた。
そして、納得した。
部下達の頭上に『闇の死神メンバー』と書かれた文字が光っていたのだった。
そして、驚きの声は王都中で発っせられていた。
『パパは、あんさつしゃなの?』
『ちょっと、あんたは闇の死神なの?』
『まさかキミが闇の死神メンバーだったなんて』
王都市民として溶け込んでいた闇の死神たちの顔が、全員白日の下にされされた瞬間だった。
そう、フィリスは闇の死神が王都中に潜んでいる事をレベル999の探索魔法で察知すると、彼等の頭上に文字を浮かび上がらせた上で王都中の建物を砂に変えて、他者が見えるようにしたのだ。
闇の死神の解散、そして逃避の日々の始まりだった。
そして、破滅を迎えようとしている者もいる。
「な、何だ?お前らは」
怒りの形相で国王達を取り囲むように四方から歩いて来る王都民たち。
「どうしてくれるんだ?お前のせいで王都が消滅したぞ!」
「一生懸命働いてようやく手に入れた店舗が……」
「家が砂になったんだぞ!今日からどこに寝泊まりすれば良いんだ!?」
彼等の迫力に、レオポルド王はクビにしたばかりの将軍の後ろに隠れた。
「こ、これはフィリスと言う女がやった事だ。そうだ、あの女を指名手配に……」
「ふざけるな!お前が一人の少女を無理やり娶ろうとした挙句、それを断られると逆恨みしてその少女を殺害しようとしたからだろうが?」
「ど、何処にそんな証拠がある?証拠も無しに国王である俺に濡れ衣を着せると、侮辱罪で打ち首だぞ!」
「しらばっくれるな!王都上空に映し出されていた幻影でしっかりと見たぞ!」
「なっ!?まさか……」
幻影と言われて思い出すのが、先程フィリスの暗殺を命じた直後に現れた彼女の姿だ。
あれと同等の映像を王都民全員が見えるように映し出されていたとすると、今はとてもヤバイ状況である。
「昨年行方不明になった俺の娘は、お前の仕業だったのか!?」
「お願い!私の娘を返して」
周りを取り囲む民衆の数が増え続けていた。
「おい、お前たち!何をしている?さっさとこの平民たちをどうにかしろ!殺しても構わん!侮辱罪だ」
元騎士団長の後ろに隠れながらも、顔を真っ赤にして喚き散らすレオポルド王に、騎士団員達は顔を真っ青にして首を横に振った。
「無理です!武器や防具は全て砂になってしまったので、まともに戦えません。それに相手が多すぎます!」
フィリスの魔法は、王都内の全ての生き物と王都の人々が身に着けている服だけを残し、全て砂に変えてしまったのだ。
それこそ、鍛冶屋が手にしていた金づちや料理人の包丁も含め、衣服以外のありとあらゆる物を。
レオポルド王を取り囲む怒り狂った民衆。
そんな彼等を前に、国王に仕えている者達は動く事はできなかった。
そんな騒ぎの中、五台の豪奢な馬車が、東門だった砂の山をかき分けて王都を出立して行った。
フィリスを乗せたアラゴン伯爵家の馬車だ。




