10.レオポルド国王、婚姻を断られる
「それは凄いですね。ねえ、国王様。もし私がレオン・バルト将軍様と戦って勝つことができましたら、王国騎士として取り立てて貰えないでしょうか」
ニコリと笑うフィリスに、将軍はヒィッと小さな悲鳴を上げた。
もしレベル999の彼女が本気で挑んで来たら、下手をすると彼は一瞬で消し炭になるか、細かく切り刻まれるかも知れない。
そんな結果を想像して、将軍は全身をガクガクと震わせた。
「ははははっ、面白い冗談を言うな。女のお前が将軍に勝てるはずがなかろう。やるだけ無駄だ」
そんな将軍を他所に、レベル差を全く理解していないレオポルド王が愉快そうに笑う。
「そんな事より、婚姻の準備だ。そうだな、今回のウエディングドレスは虹色真珠が良いな。良し、虹色真珠を百個ほど散りばめられたドレスを用意させろ」
「……お断りします」
彼の指示で動き出そうとする側近達。だが、フィリスの言葉に全員が動きを止めた。
「ん?何と言ったのだ?」
何を言っているのか分からず、レオポルド王は首を傾げた。
彼にとって、国王たる自分の決定は絶対であり、それに異を唱える者などいなかった。
だから、彼女が何を断っているのかが、さっぱり理解出来なかったのだ。
「レオポルド王様との婚姻をお断りさせて頂きますと申し上げたのですわ」
その場の空気が凍り付き、全員の血の気が引いた。
「何を言っているんだ?お前が俺の嫁になるのは決定事項だぞ」
王である自分に対しての反抗的な態度にレオポルド王は不機嫌な顔をするが、フィリスはそんな彼を冷たい目で見ている。
「レオポルド王様。私はこの国の民ではありません。お母様の実家に遊びに来ただけの、他国の貴族の娘です。そんな相手に対して強引に婚姻を結ぼうとするのは国際問題に発展しかねない事案です。ですから、婚姻の件はお忘れ頂きたく存じます」
ここでは敢えてファルターニア王国から追放されたとは言わない。
そんな事を口にしたら、その場でこの国の民とされて、無理やり結婚させられてしまうからだ。
「そんな事は関係ない!俺と結婚させてやると言ったんだぞ!女のお前はそれに従うのが当然だろうが!!」
顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながら怒鳴るレオポルド王に、距離が離れていて助かったとフィリスは安堵する。
「この国の民ならばそうでしょう。しかし、他国の者となると話は別ですわ。いくら国王様と言えども、この国に立ち寄っただけの他国の民を無理やり捕まえて自分のものにする事は出来ません」
「貴様!!女の分際で口答えするのか!?不敬罪でこの場で処刑してやる!」
レオポルド王は玉座から立ち上がると、鞘から剣を引き抜いた。
周りの者は顔色を変えたが、彼を止められる者は一人もいなかった。
彼はドスドスと足音を立ててフィリスに近付くと、彼女の首を目掛けて剣を振った。
「な……何だ?」
彼の剣は確かに彼女の首に当たった。だが、傷一つ付ける事は出来なかった。
「レオポルド王様。これがレベル差ですわ。残念ながら国王様では私に傷を負わす事すら叶いませんわ」
冷たい目を向けたまま、彼女は静かにそう言った。
「くそっ!おい、将軍!何ぼさっとしている!さっさと、このクソ生意気な女を殺せ!」
レオポルド王は振り向いて将軍にそう命じるが、将軍はフィリスと目が合った途端、その場で土下座を始めた。
「こ、こ、国王様!どうか、それだけはお許しください!如何様な処分もお受けしますので!」




