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1.令嬢、国外追放を言い渡される

二千文字以内でちょこちょこと書いていく予定です。

「国王様、大変です!外に……外に……」

 ルイン七世が男爵の説明を受けている時、兵士が慌てて謁見の間に駆け込んで来た。

「こらっ!今、国王様は応対中だぞ!」

 部下の無礼に近衛騎士団長が怒鳴るが、兵士は血相を変えた顔で繰り返す。

「大変です。外に……外にぃぃぃぃ!」


 その様子に、さすがに何かとんでもないことが起こっているのが分かり、国王達は城のベランダに移動した。


「な……何だ、あれは?」

 外を見た国王は、そう言葉を絞り出すのがやっとだった。

 なぜなら、王都の上空に大きな映像が浮かんでいたからだ。


 その映像が映し出しているのは、彼の息子、第一王子のアルベルトだ。


「おいっ!あれは何だ?」

 近衛騎士団長の問いかけに、宮廷魔術師達がプルプルと首を横に振る。

「分かりません。幻影魔法の一種かと思いますが、あれだけの大きさと鮮明さ……第六位階……いや、第七位階以上かと……」

「第七……だと?」

 国王が驚愕の声をあげる。

 宮廷魔術師でも第五位階の幻影魔法しか使えない。それが第七となると、化け物レベルだった。


『では、(わたくし)の退学と国外追放は決定事項だと仰るのですね』

 突然、映像から声が聞こえた。

 それは大音量と言うわけではなかったが、なぜか鮮明に聞き取れた。

「おおっ……風魔法で音の伝達力を……これは、第六位階?」

「いや、風魔法だけだと一方向に声を送るのが精一杯です。恐らく振動系の魔法も併用しているかと」

 宮廷魔術師達が映像から目を逸らさずに推察しあっていた。


『くどい!この通り、これは国王命令だ。覆る事は無い』

 映像の中のアルベルト王子は、そう言って一枚の羊皮紙を掲げた。

 王子の前には、絹のような美しい金髪を背中の中ほどまで伸ばした青い目の美少女が映し出されている。


「あの少女は?」

 国王の問いかけに、宰相が答える。

「彼女はフィリス・フォン・ロスチャイルド嬢です」

「ロスチャイルド伯爵の娘か」

 その娘がなぜ退学だけでなく国外追放にまでなっているのか。

 国王は思い当たる節はあった。だが、とても嫌な予感がした。


『院長先生。アルベルト王子はこのように仰っていますが』

 フィリスが振り返ると、突然初老の男性の姿が空中に浮かび上がった。

『国王の命令なら、それに異を唱える事はできない。それに、あなたの不正は擁護できる範囲を超えている』

 院長先生が眉尻を下げて首を横に振る。


『そうだよな。いくら何でもレベル999はやり過ぎだ。そんな不正、すぐにバレるとは思わなかったのか?』

 そう言って、軽蔑の目をフィリスに向ける王子。


「レベル999?それは人類が到達できるレベルなのか?」

 国王が宮廷魔術師達に振り向く。

「分かりません。でも、目の前の魔法を彼女一人で行っているとしたら、恐らくレベル100は超えているかと」

 王国史上最高レベルは先代の宮廷魔術師長で、レベル85だった。

 だが、目の前の少女はそれを遥かに上回るレベルであるかも知れないと言う事だった。


『分かりました。国王命令とあらば、それに従いますわ』

『ああ、レベル測定で不正を働き、他の貴族達の努力を踏みにじるような者は退学になって当然だ、さっさとこの国から出て行け』

 アルベルトは野良犬でも追い払うように、シッシと手を振った。

 それに対して、フィリスは感情の読めない顔をして、スカートの両脇を少しつまんでカーテシーをし、頭を下げた。

 そして踵を返して一歩進むと、そこで歩みを止めた。

 そんな彼女に王子は訝し気な視線を向ける。


『あ、そうですわ』

 フィリスは振り返ると王子に笑顔を向けた。

『気晴らしに真上に向かって爆裂系の魔法を放って宜しいかしら。レベル999だと王都が半壊しますけど、今更発言を撤回して危険だから止めろとは仰りませんわよね?』

『まだ言うか!いい加減、その嘘は止めろ。不愉快だ』

『では、私が魔法を放っても良いのですわね?それにより王都が半壊しても、その責任はアルベルト王子がとると仰るのですね?』

『ふんっ。やれるものならやってみろ。責任は全て俺が取ってやる。まあ、この学院の建物すら壊す事はできないだろうがな』

 王子のその挑発に、王城の者達は青ざめた。


「おいっ!誰か、あの馬鹿息子を止めろ!」

 もし宮廷魔術師達の言う通り、彼女がレベル100を超えているのだとしたら、王都の半壊とまではいかなくでも、魔法学院一帯は瓦礫と化すだろう。

「無理です!ここから魔法学院までは、走っても十五分は掛かります!」

 国王の命に、兵士達から悲鳴に近い声が返って来た。


「全員、魔法障壁を展開!国王様をお守り――」

 宮廷魔術師長がそう指示を出そうとしたところ、この場の全員の身体が薄っすらと青白く輝き出した。


「これは……?」

「防御魔法か?」

「だが、これは……」

「第七位階なんてレベルじゃありません!とても緻密で、高度な魔法です!まるで神話に出て来る天使の魔法障壁のような」

 宮廷魔術師達が驚きの声を上げている。


 こんな事ができるのは宮廷魔術師の中にはいない。だとすると……

 国王は再び魔法学院の方角に顔を向けるが、その時にはもう、空中の映像は消えていた。


 国王達がしばらく呆然と学院の方を見ていると、突然とても眩しい光が王都の上空を包んだ。



 その日、王都の三分の一が瓦礫と化した。

 だが不思議と、死者どころか負傷者も一人も出なかった。

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