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9話



 祭壇に膝をつき、祈る。桃櫛神様の姿は今日も見えない。きっとまだ信仰が足りないんだろう。


 祭壇の前から離れ、回り込むようにして祭壇の後ろに出る。祭壇を跨ぐのが一番の近道だが、そんな不信心なことをしてはいけない。


 ゴーレムを倒したことで手に入れた石ブロックを取り出す。一度アイテム化したものは、どこに置くかを指定してインベントリから直接設置することができる。およそ1m×1mの石の立方体なので、ステータスによっては軽々と手に持って運べるだろうが、今の俺には難しい。


 桃櫛神様の住まわれるお社に続く階段も作りたいところだ。あの小さな体では高さは12cmほどの段差が良いだろうか。いや、着物を着ているならもっともっと低い方が良さそうだな……? そうしよう。


 一人で頷き、先ずは祭壇から見てバランスが良くなるように縦に二列、2つずつ石ブロックを並べる。


 石ブロックのディティールにも色々あり、豆腐のように真っ白い立方体にも出来れば、岩のようにも出来る。生産職であればさらに細かくいじれるようだが、どういう風にしているのかはよくわからない。


 誰かに作ってもらったり、完成品を買ったりするのが一番手っ取り早いが、それは信仰という点でいえばかなり遠回りになる。不出来でも自分で作った方が信仰ポイントが高いため、シャーマンはこういう時は拠点に馴染みやすいかどうかを重要視する。


 


   本殿(仮)

  石←─ ─→石

  石← 1m → 石


    祭壇

   †祈る俺†


 基本的なイメージとしてはこうだ。桃櫛神様のお社をどれだけ高い位置にするかで列を作る石ブロックと積む石ブロックの数が決まるが……。あんまり高いと桃櫛神様が大変かもしれない。もし桃櫛神様が宙に浮いたり瞬間移動が出来ないとすると、徒歩で登ることになる。


 そこで俺が気合いを入れて百段の階段を作ったが最後、一生お隠れになられてしまうかもしれない。


「……まあ。ほどほどでいいか」


 一人で試行錯誤を重ねる。これがあればいいんじゃないかと気がつけばフィールドに出ていたり、マーケット(主にプレイヤーが出品している)を睨めっこしたりして、インベントリの中身ががらりと変わっている。時間はあっという間に過ぎていた。


「……完成だ」


 こういう時間が好きでシャーマンをしているんだったと、改めて自覚する。

 

「すばらしい……」


 いつもの切り株に座り、達成感に酔いしれていた。


 自然と調和するように本殿は茅葺の家を参考にして、扉やなんかを白と朱にしてアクセントを加えている。大きな物は作れないため、広さは二畳くらいだ。


 俺が今まで培ってきた知識、そしてSOTWで持ち得る物をほぼ注ぎ込んだ。途中で脱線し、ししおどしや池まで作ろうとした名残が微妙に枯山水に見えなくもない。思い出すと微かに笑いが込み上げてくる。悔いはなかった。


 感慨深く眺めて浸っていること、およそ数十分。ソード君からチャットが着ていたことを思い出した。思い切り無視して忘れていたが、どんな用件だろうか。




フレンド:ソード


<森の民さんのいる先のエリアを攻略したいんですけど、一緒にどうですか?



 なるほど。ゴーレムの奥に進まないのは賢明だな。山の周辺は攻略するには骨が折れる。どちらかと言うと、推奨レベルまでレベリングしてから欲しい素材を集めに行くようなエリアだ。


 俺の今の目的はこの拠点のグレードアップぐらいしかないし、特に断る理由もないか。


 いいぞ、と返信してチャットを閉じる。


 するとすぐに返事がきた。


「早いな」


 またチャットを開く。SOTWを楽しんでいるようでなによりだ。


フレンド:ソード


<森の民さんのいる先のエリアを攻略していきたいんですけど、一緒にどうですか?


>返事が遅れてすまない。いいぞ


<今からでもよろしくお願いします!!!!!!!!


>あ、ああ。待ってるよ


<はい!!!!(拳の絵文字)


 お、おう……。凄い勢いだな……。というかなんで殴られたんだ……?


 今の若い子はチャットにまで勢いがあって面白いな。


 不意の異文化交流に目を白黒させられたが、これもゲームの醍醐味だろう。


 待っている間に、それっぽい枯山水に手を加えてみることにする。


 竹と麻紐と石は……あるな。問題ないだろう。


 竹をししおどしっぽく組み、それっぽい大きな石に乗せて、池っぽい感じに丸石をならしていく。


 やっつけだが、かなり景観がそれっぽくなったように思う。


「森の民さーん!」


 ソード君と巴君が拠点の外周部に近づいてくる。


「ここ、かなり豪華になりましたね」


 まあ、以前の拠点は石を円形に並べて中心に枝が刺さっていただけだからな。劇的ビフォーアフターには間違いない。


 腰を上げ、二人と対面する。


「ゴーレムから石材が手に入ったからな。二人のおかげだよ」

「拠点っていうのはやっぱり重要なんですか?」

「ああ。拠点の効力の範囲内ならステータスが上がるし、事前に強力な祝福を施したアイテムを用意できる。難しく考えなくても、祈る場所(祭壇)を用意するだけで時間はかからないから早めに設置するといい」

「祈る場所ですか。とりあえず後でやってみます」

「それで、今日の攻略も二人がメインで、俺が補助という形でいいのかな?」

「それでおけです。今日もよろしくお願いします!!」

「……よろしくお願いします」

「ああ。よろしく」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章も読みやすいし、突飛な流れにならないので気兼ねなく次の話に進めます。 [一言] まだ始まったばかりですけど、これからどう話が展開されるのか楽しみです。頑張ってください。
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