6話
生産職を伴う利点は、フィールドのレア素材を入手しやすい点だ。素材の採取場所までのクリアリングを済ませ、生産職に素材を採ってもらう。その間、戦闘職は周囲を警戒して生産職の護衛をする。
もっとも、初期マップで入手できるレア素材の多くは『良質な木材』や『良質な石』というような『良質』シリーズばかりだ。
そこら辺でとれる石ころよりちょっと質が良いとか、そんな程度でレアリティはDがD+になるくらいでしかない。
一般的には生産職はそれらでクラフトし、『良質な石剣』だとか『良質な木剣』だとかをひたすら作ってレベルを上げることになる。
「精霊よ! 俺に力を!」
ソード君は祈りを簡略化していた。巴君が作った『良質な木剣』を振り回している。
ゴブリンが強いとはいえないとはいえ、ソード君は体幹がしっかりとしているように見えた。一体ならただのゴブリンを相手に負けることはないだろう。
「どうですか?!」
「センスあると思う。特に言うことはないな」
「よっし!!」
ガッツポーズをして楽しんでいるソード君には見えていないようだが、巴君が後ろで弓矢を作っているのが見えた。
職業ボーナスがない武器を使うのは、はっきり言って難しい。リアル技能にはダイスロールもプラス判定も補正されない。一応生産職には『集中』のように器用(DEX)を上げるスキルがあるから一つも補正がないわけではないが……。
悩んでも仕方ない。本人がやりたいならさせるべきだろう。やや声を潜め、ソード君に聞いてみる。
「巴君は弓道か何かしていたのか?」
「今もしていますよ。試合に出ると県大会は余裕です」
「それは凄いな」
控え目な性格に思えたが、芯があるらしい。俺が驚いていたのがわかったのか、ソード君が得意げに言ってきた。
「あいつはあれで結構負けず嫌いなところがあるんですよ」
「なるほど。じゃあ次は巴君が弓を使う前提で戦ってみようか」
二人で巴君のところまで歩いていくと、巴君はなにやら真剣な表情で試し打ちをしているところだった。
現実で使っているものとは品質も大きさも形状も変わるのだろう。ぶつぶつと呟いている。全く話しかけられる雰囲気ではなかった。
「おーい、とーもーえー!!」
「おお」
アニメでよく見たシーンだ。これが気の置けない仲というやつか。
「ひゃっ?! と、ソード君?!」
「おお」
アニメでよく見たシーンだ。感動した。これがギャップ萌えなんだなぁ。こんな青春を送ってみたかったなぁ。
「おいおい。リアルの名前で呼びかけただろ、今」
「ご、ごめん……」
「満足するまでやってたら日が暮れちまうだろ。実戦で試してみようぜ」
「いいの?」
「森の民さんの提案だからいいんだよ」
巴君が視線を向けてきたのでこくり、と頷いておく。
「弓使いの主な目的は三つ。一つ目は先制攻撃。二つ目は援護射撃。三つ目は牽制射撃だ。とはいえ、味方と連携してこれ全部をいきなりやるのは難しい。先ずは巴君が一人でゴブリン を相手にどれくらいやれるか試してみよう。勿論、ゴブリンが近づいてきたら俺とソード君で対処するから安心してくれ」
「わかりました」
長い説明だったが、巴君は迷わず頷いた。
「よし、それじゃあ出発しよう」
「おー!」
「おー……」
3人で手を挙げる。案外と愉快なパーティーになったもんだ。
◇◇
「2体いるな」
「そうですね」
まぁ山エリアももう中腹で、ゴブリン が一体だけででてくる段階は過ぎていた。もう少し進めばゴーレムが出てくるエリアに入れるようになる。
「巴君には悪いけど、予定変更だ。まずあのうちの一体に先制攻撃をしてもらう。それで釣り出したゴブリンをソード君に倒してもらう。二体目の到着を遅らせるのも巴君の役割だ。これを二人でできるか?」
「「やります」」
即答だ。二人でやる気満々だった。
「じゃあ俺は失敗した時のフォローに回るから、巴君は好きなタイミングで撃ってくれ」
「はい」
すっ、と淀みなく矢を番えて引く巴君。弦は張り詰めているが、全く震えていない。
ひゅんっ、と風を切る音にやや遅れてゴブリンの頭に矢が刺さった。
「一撃だな」
「一撃ですね」
突然倒れた仲間に驚くゴブリンを尻目に、巴君が二本目の矢を番えていた。
敵襲があったことを把握したゴブリンがこちらを向くと、その眉間に矢が生えた。
「凄いな」
「そうですね」
巴君も満足げな顔を隠しきれないようだ。興奮を誤魔化すように弓を下ろして静かに息を吐いていた。
「うーん。これは逆に困ったな」
「連携の練習にならないですね?」
「それもある。これより強いゴブリンだと絶対に苦戦する。体力も高いし、動きも速い。君達のレベル帯にちょうどいい敵がいないんだよ」
「俺は今のままでも楽しいですけどね」
「そうか。それにしてもソード君の彼女はとんでもないな」
さらっと言ってみると、ソード君は否定せずに「へへへ……」と照れ笑いするだけだった。おのれリア充だったか。
爆発しろ。