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24話


 下っている。どんどんと降りて行く。きっと辿り着くのは地底湖と呼ぶに相応しい場所。俺はまだ高い場所にいる。


 鍾乳洞の先から水滴が滴り落ち、フードで跳ねる。ゲームであるため不快感はないが、気分は落ち込みやすい。環境温度が下がり、体が濡れればバッドステータスの付加には抗えないだろう。硬い石の地面には落ちてきた水滴が一面に水を張り、靴底を濡らしている。


「精霊よ。我が呼び声に集い給え。我を祝福し給え」


 道が開けた先にいたのは魚人だった。名前はマーマン。発達した上半身に足がない下半身を持ち、モンスターの中では中堅どころの強さを持つ。


 真っ白い目に縦長の瞳孔。恵まれた大きな体躯は上半身だけでも2.5mにもなり尾を含めた全長は4mを超えるだろう。ぎょろりとこちらを視認し、尾をにょろにょろと動かして近づいてくる。


 マーマンの後ろは全て青い鱗で覆われている。ダメージを与えるなら正面からが望ましい。


 振るわれる太い右腕を避けつつ、精鋭コボルトの手斧で脇腹を斬る。マーマンは怯むことなく、鋭い動きで左腕を振り上げるてくるのをまた避ける。


 マーマンの動きは独特で、それはコブラのようであり、スキーのようであり、芋虫のようでもある。尾での重心移動は支点を幾つも作りながら、さらに滑らかに流動する。


 ステータスも中盤に出てくる正統派のモンスターとしてバランスよく高い水準で整っている。筋力、体力、耐久力はシャーマンでは敵うわけもない。


 どう戦うかだが、やはり騎士系の職業なら相性が良いだろう。どこぞのスケルトンや気の狂ったカニのように尖った相手でもなければ、騎士は1vs1では無類の強さを誇る。


 有利な武器は特にない。ステータスやスキルで上回っていることのほうが重要で、貧弱な職業が盾を持ったところで力負けしてしまい、ダメージレースに勝つのは難しい。


 つまり、こんぶや恵比寿君なら正面から殴り合って勝てるだろう。俺やソード君、巴君には攻撃力と耐久力が足りておらず難しい相手ということになる。


 諦めるにはまだ早い。職業や武器で有利がとれないとなれば、後は属性だ。毒や麻痺が手っ取り早いが、祝福された武器と毒は相性が悪い。雷属性のエンチャントでちまちま削っていくことになる。


 インベントリから祝福された石を取り出し、手斧に添えて祈る。


「集いし精霊よ。我にいかづちを与え給え」


 エンチャントが成功し、祝福された石がただの石になる。雷などの属性エンチャントは祝福エンチャントより強力ではあるが持続時間が短く失敗もしやすい。さらに、戦闘中では致命的に時間もかかる。祝福された石を使い捨てたのはそのためだった。


「第二ラウンドだ」


 集中力を研ぎ澄まし、マーマンの攻撃を回避する。攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか、マーマンが振り上げから叩き下ろしの頻度を増やしていく。破壊力が増すぶん、重心が一気に下に傾く隙の大きな攻撃だ。


 とはいえ近づくのは危ないため振り下ろした右拳を前から斬りつけていく。正直、相手の防御力(DEF)も魔法防御力(MDEF)も高いため弱点属性であっても物足りないダメージしか与えられていない。


 だがこれでいい。1vs1で焦る意味はない。むしろ面白いじゃないか。


「お前はどうだ?」


 マーマンがえらからばたばたと空気が抜ける音を出す。


 尾を上下に畳み、体全てでデコピンをうつかのように力を溜めている。筋骨隆々な体が膨張し、顔は俺を睨みつけていた。


 そしてそれは放たれた。まるで低空を飛ぶミサイルのような速度。全力で跳べば、マーマンは尾で地面を叩き俺を追尾する。


 インベントリから特大のハンマーを取り出す。ただ重力と重量に任せきって振り下ろすだけの、ただのズルだ。


 迎撃は成功した。だが、当てるのが精一杯の稚拙な迎撃だった。コボルト士族の長の槍を盾で受けた時のような凄まじい衝撃がハンマーを握る両腕から迸り、空中で弾き飛ばされる。


「っ────?!」


 壁に背中を打ちつけたらしく、悲鳴も出ない。肺から空気が抜け、視界が明滅する。


 なんとかポーションを飲んでふらふらと立ち上がると、マーマンは倒せていたようでドロップが落ちていた。


 "魚人の皮""魚人の鱗""魚人の骨""魚人の鰭""魚人の鰓""魚人の尾"


「被りなしか」


 大量だ。流石に装備を作るにはもう一匹倒さないといけないが、毎度毎度あの戦い方をしていては身が持たないのが実際のところだ。


「まあ、色々試すか。そもそもマーマンが格上の相手だから仕方ないだろ」


 気を取り直し、「よっこらせっ」と地底湖の洞窟を歩いていく。


 マーマンは群れを作る種族らしいが、優しいことに次も一体で配置されていた。


 精霊に祈り、精鋭コボルトの手斧に雷を付与し、ゆっくりと準備を終える。


 こちらから飛び込むことはない。常に相手から攻撃させる。


 下手に背後に回れば尻尾の範囲攻撃が飛んでくる。俺が強ければそういう雑な攻撃をカウンターの起点に出来るが、残念ながらリスクのほうが大きい。雑な攻撃一回貰うだけで紙切れのように吹き飛ぶのが俺だ。


 マーマンが大きく手を掲げたところに手斧からツルハシに持ち替える。叩きつけを回避し、ツルハシを思い切り振りかぶり、マーマンの手の平に全力で振り下ろす。クリティカルヒットの判定の一撃でおよそ三割削った。


 マーマンの叫び声が響く。 右腕は使えないだろう。


 ツルハシから手斧に持ち替え、だらりとした右腕側に回り込む。それを嫌がったのか、体を捻り、左腕で体を支えながらマーマンが力任せに尻尾を振ってきた。


 半回転の尻尾をマイケルジャクソン並みに体を逸らして躱す。走っていた勢いでその体勢のまま踵が滑り、前へ進んでいく。地面が硬い岩で濡れているからこそ出来た回避だった。


 腹筋の力で体を起こし、跳んでマーマンの顔を斬りつける。直後に左肩を蹴って離脱する。


「ふう」


 ここまでやって残り体力はやっと三割といったところ。満身創痍のマーマンは右腕を庇いながら、自重を支えるのがやっとの様相ではあるものの、その脅威は依然として変わりない。


「激闘だな」


 楽に倒してやれない、だなんていうのは思い上がりもいいところだ。


 精霊に祈り、祝福された石を使い捨て、再度精鋭コボルトの手斧に雷を付与エンチャントする。


 ここまで来たら出し惜しみはない。油断もしない。

 

 さっきの尻尾攻撃は肝が冷えたからな。


 冷静に指先をマーマンに向ける。


「精霊よ。彼のモノを痺れさせ給え」


 避けられた。が、体勢を崩したマーマンを手斧で斬る。ダメージが蓄積していたんだろう。やっと怯んだところに踏み込み、全力で手斧を首に振り下ろす。


 俺の勝ちだ。


 ドロップを回収しつつ、当然の疑問が口から溢れ出た。


「これ後何回やんの……?」


 つーかボスがいたとしたら勝てなくね?


 

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