23話
シャーマンの一日は祈りから始まる。
「この地の恵みに祈りを捧げん」
祭壇に捧げ物を置き、片膝をついて祈る。桃櫛神様はお見えにならないが、拠点は祝福されたアイテムで着々と充実していっている。祝福されていれば石であろうと何個あっても良い。それがシャーマンだ。
捧げ物で祭壇がごちゃつかないように拠点内に参拝道のように祝福された石を配置していき、戦闘に使うものはインベントリにしまっていく。
一日を自由に金策していた甲斐があり、金もアイテムも消費したぶんは取り戻したと言える。
今日の森の民はソロ二日目である。行きたいところはまだまだ尽きておらず、やはりうきうきだった。
ゴーレムの山で鉱石を掘りに行っても良し、ゴブリンの先のボスを倒しに行っても良し。あり過ぎて困るくらいだ。ただし街には行かない。
コミュ強のシャーマンは街を拠点にして仲間とクエストだとかをパーティーでこなしていったりもするらしいが、そんなシャーマンとは出会ったことはないので都市伝説だと勝手に思っている。
とりあえずゴーレムのエリアに飛ぶことに決めた。鉱石を採取するためのツルハシと戦闘用の祝福されたツルハシを確認し、準備万端だ。
◇◇
林の静謐な空気から一変し、やや強い風が土の匂いを運ぶ切り立った岩山に風景が変わる。
ゴーレムがいた場所から少し進むと、坑道に入れる入り口がある。ランタンが中を照らしてくれているが、狭い通路は明るい場所と暗い場所がはっきりとわかれており、歩くだけでも神経を使う。
入り口付近は安全な採掘場所に通じているが、その奥は自然的な空洞になっており、荒れた空間になっている。
MOBと戦いながらになるが、ここからのほうがよりレアリティの高いアイテムが入手しやすくなっている。
一番欲しい物は『精霊石』というアイテムで、触媒としての価値は一級品だ。属性のついた魔法の成功率と効果をぐんと高めてくれる。好きな属性をつけられて過剰付与もほぼ成功するため、そのあまりの強さから「あのボスは精霊石何回ぶんだな」という指標にまでなるほどだ。ちなみに、ゴーレムは顔面の穴に当たれば精霊石一回ぶんで、コボルト氏族の長は精霊石二個ぶんである。投擲を外さなければ約30秒で戦いが終わる。RTAかな?
鉱夫の頭領はソリンの援護を含めておそらく精霊石五個分くらいだと思われる。改めてこんぶにはふざけるなよと言いたい。
採取ポイントで立ち止まる。素人の俺からすると、何故ここなら鉱石が入手出来るのかというのはまるでわからない。表面をなぞっても、硬い感触が返ってくるだけだ。
鉱石の採取には難しい技能は必要ない。ツルハシを振ったらシステムが処理してくれ、失敗などもなく、掘り尽くすまでは何かしらアイテムを入手出来る。
SOTWの良い点には、適当な品質の装備で遊ぶだけなら自己供給が行き届いているというところが挙げられるだろう。病気や怪我をしなければ詰みようのない無人島ゲームのようなものだ。生きていくだけならば適当にやってても冬を越せてしまえるような、そんな難易度でサービスを提供されている。
ただ、そういうゲームでも出会した壁をその時に越えられないとやめてしまうプレイヤーもまた存在する。例えばなんか熊に出会って倒せなかったとか、なんか思ったより蜂が凶暴だったとか、なんかものを作るのがめんどくさいとか、そういうちょっとしたことで。
それはつまり、要素が多いことは必ずしもプラスに働くことばかりではないということを強く示している。敵を倒すだけのほうが楽しい、資源は限りがないほうが楽しい、単純なほうが楽しい。不快な要素がないほうが楽しい。
俺もそうだ。今だって無心になって採掘できれば良いが、基本的にはこういう無駄なことを考えて気を紛らわす他ない。
あるいは、隣に誰かがいて、一緒に無駄話をしながら採掘したらどうだろうか。……正直そっちのほうが楽しそうだ。全然否定する要素がない。
それでも俺はソロでいく。この一振りがより良い拠点作りに繋がると信じて。俺の明日はこれからだ!
◇◇◇
──粗暴な格好をしたシャーマンが採掘をしている音がしばらく鳴り響いていた。
◇◇◇
はい、精霊石はでませんでした。奥に行くとMOBを警戒しながら採掘や採取をしなければならないソロハードモードに突入します。はい、というわけで突入します。
「精霊よ。集い給え」
ゆっくりと時間をかけて精霊に呼びかける。
「精霊よ。我が道を照らし給え」
これは『精霊の先触れ』といい、一定範囲を照らしてその中のマッピングをオートでしてくれるシャーマンの最強技の一つと言っても過言ではないスキルだ。
範囲内にMOBがいればわかるし、気まぐれでアイテムの存在も教えてくれる。欠点は失敗しやすいのとそのオブジェクトが何かはわからないことくらいだ。
マッピングに反応したのはダストスライム。攻撃しない限りは敵対しない非攻撃性のMOBだ。たまに採掘をしていると足元に寄ってきて、もそもそと削り落ちた破片を体内に取り込む姿はマスコット的な人気がある。
このエリアの最も特異な特徴は、生態系と力関係が存在することだろう。
高く、硬い山を切り拓いたこのエリアには食べる物がない。まともな生物が生きていくには辛い場所だ。ここを棲家にして食べ物をとりにいく時に下山するにしても、穴蔵としては深過ぎる。
こんな場所に住み着く生き物とは何か。それは山の麓で住む場所を追われた生き物だ。
幽鬼のように力なく歩くゴブリンのステータスには、空腹によるバーサクが表示されている。手には何も持たず、肩がだらりとしていて、血走った目だけは前を向いている。
俺を見つけたゴブリンは一目散に走ってきた。その胴体目掛け、ツルハシをフルスイングする。脇腹を貫き、そのままの勢いで壁に衝突する。体力を失ったゴブリンはしばらくもがき、ぱたりと光になって消える。
バーサクは非常に凶悪な状態異常であり、最強のバフとも言われている。痛みによる怯みがなくなり、筋力と素早さが上がり、より攻撃的なAIが働く。掴みかかり、噛みつき、体力が0になっても少しの間は一心不乱に暴れ回る。
しかもドロップが渋い。普通のゴブリンと全く変わらない。プレイヤーからしてみれば厄介なだけでなんの旨みもないのがこのバーサクだ。
のそのそ歩いてきたダストスライムが目の前を通過し、ゴブリンが消えた場所で何かを取り込むような仕草を見せる。ツルハシが壁に当たった衝撃でまた破片が落ちた──というわけでもない。
これを繰り返したダストスライムは赤みがかかるとともに大きくなっていく。プレイヤーの視点では光になって消えているモンスターだが、その死骸という概念が存在することを教えてくれるのがスライムという種族だった。
通常では水やカビや土を食べて細々と暮らしているような生き物しかいないが、奥に行けば行くほど急に謎のモンスターがいたり、急にレベルが高いモンスターがいたり、急に繁殖しているモンスターがいたりする。つまりここは、ちょっとした日替わりダンジョンの様相を呈するダンジョンだということだ。
死ぬことを覚悟して奥に潜っていく。
奥に行く毎に通路が広くなっていく。大型の何かと戦うに充分な空間だ。空気の流れも良く、湧水が染み出し、形成された地下水道を綺麗な水が流れていっている。
とはいえ、やはり生き物の気配はなく清涼な寂しさがあるだけだ。水が綺麗だと言ってもミネラルが豊富そうなそれは硬水の尺度を超えていそうで飲む気にもならない。
「精霊よ。我が道を照らし給え」
精霊の先触れには反応がある。それは水の中にもあるが、じっとしていて動く気配はない。
活発に動き回っているようなMOBはハズレの可能性が高いため、朗報でもある。
採掘をすると静寂の空間をぶち壊し、嫌に大きな音が大きく反響する。しかし接近してくるようなものはなく、むしろ逃げていくような反応が多い。
ダストスライムだろうと当たりをつけた反応に近寄ると、先程より二回りは大きいダストスライムがのそのそと動いている。色は暗い鼠色で、石が主成分のストーンスライムに該当することがわかる。
倒すのはそう難しくはないのだが、労力に見合うドロップが出る確率は低い。ストーンスライムの外見を眺め、鉱石がないことを確認して歩き出す。
進んでいくと、マップが切り替わった。
『這い擦る地底湖』
湿った空気感が増し、埃っぽさが薄れて冷たさが鼻を通り抜けていく。
これはSOTW体験版βにはなかった仕様だが、フィールドの名前からして連想されるモンスターには心当たりがある。
「精霊石に擦りもしてなさそう」
そう。新しい仕様を発見したのは喜ばしいが、残念ながら鉱石系でも精霊系の敵でもない可能性が極めて高い。
とりあえず踵を返し、ストーンスライムの前で立ち止まる。
するとストーンスライムは逃げるでもなく、俺の足に近寄ってきた。靴を餌にされるのは勘弁だ。代わりに鉄鉱石を転がしてやるとそっちに食いついた。
「お前を育ててやっても良いんだけどな」
嘘だ。祝福された石を食べさせてこいつに精霊石が生えてくるよりも先に俺の手に負えない進化をする可能性のほうが高い。
「冒険も悪くないか」
精霊石も元々望みが薄かったため決まるのは早かった。ストーンスライムと別れ、ツルハシをしまう。精鋭コボルトの小斧を二本取り出し、地底湖の攻略に向かった。
◇◇◇
【追放された駆け出しシャーマンのスレ】
1:追放された駆け出しシャーマン
ひでぇ…! あいつらひでぇよ……!
2:名無しのシャーマン
またお荷物なシャーマンがパーティーから追放されたか
3:名無しのシャーマン
残当
4:名無しのシャーマン
パーティーに居座りたかったら大人しく職業変えるんだな
5:名無しのシャーマン
メインストーリーやらクエスト進めるには街を拠点にするしかない
わかっておったろうにのう
6:名無しのシャーマン
ワグナス!
7:名無しのシャーマン
それではシャーマンは何の手立てもなくメインコンテンツを楽しめないまま、街を離れろというのか!
8:名無しのシャーマン
そうじゃ それが運営のいう正しいシャーマンのプレイじゃ
9:名無しのシャーマン
兄様! 街からうんと外れの山にコボルトが湧いてるわ!
10:名無しのシャーマン
よし!チャキ!
11:名無しのシャーマン
行くのか?
12:名無しのシャーマン
コボルトなど、何匹倒したか知らないよ
13:名無しのシャーマン
それはそう
14:追放された駆け出しのシャーマン
許さねえ…! 許さねえぞお前ら…!
15:名無しのシャーマン
俺ら?!




