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17話


「ボクが瘴気を祓います! どうか10分、いえ、8分の間耐えてください!!」


 ソリンが言った瘴気はゲームのシステムとして存在する。それはフィールドの特性でもあれば、特定のMOBが保有する特性やスキルでもある。


 おおまかには二種類あり、一つは精神異常のデバフ。恐怖、発狂、混乱、同士討ちや自害に至らしめる。そしてもう一つは単純にHPを削っていくもの。いわゆるスリップダメージ。


 今回は後者だ。そして瘴気への耐性は信仰(FAI)に左右される。


 鉱夫の頭領に一番近いこんぶのHPを見る。こんぶは巡礼者で信仰が高い上に継続回復リジェネがついていて、精神異常へのバフもついている。ほぼ万全な状態だ。


 そのこんぶのHPが目に見えて減っていっている。こんぶでそんな状態なのだから、俺やソード君はみるみると減っていくし、信仰とは全く関係のない生産職の巴君はもはやソリンを守るとか言っている場合ではない。


「プランCだ!!!!」

「応!!」


 叫べば、一拍の間もなくこんぶが叫び返してくる。


 プランCとはすなわち、『シャーマンなんか連れてくる難易度じゃねえぞ! こんぶの馬鹿!』という意味のcrazyのCである。


 前衛はこんぶにしか務まらない。こんぶの足下に聖水を投げて瘴気を和らげる。


 聖水を投げたことで俺へのヘイトが高まるが、それ以上のヘイトをこんぶに稼いで貰うしかない。今回はこんぶが一番大変な役割だ。


「"ボクの巡礼は花の道。花はしるべ。かつての生を讃え、これからの営みを咲かせる灯火とならんことを"」


 ソリンの周りに淡い光が差す。


 俺たちの中で最もヘイトを集めるのは、やはりソリンだ。ソリンの浄化作用は聖水を遥かに凌ぐ。


 つまりこんぶはソリンを死なせたくないならば、死に物狂いでソリンよりもヘイトを稼がなければならない。


 鉱夫の頭領は足を引き摺りながら、四つん這いでソリンへと向かい始めた。生前に酷い仕打ちを受けたのだろう。その憎悪にまみれた形相は、コボルト氏族の長よりも遥かに獣じみている。


「うおらああああ!!!!」


 こんぶが咆哮を上げて行くてを阻む。


「俺は"塞がらぬ手のこんぶ! 祈りの所作とは心の在処。故に手は塞がらず、祈りは我が五体に宿る"」


 巡礼者の詠唱はオリジナリティが強い。詠唱文はAIが勝手に色々決めてくれる親切設計だ。基本的にはプレイスタイルから二つ名を獲得し、そのプレイスタイルをさらに強化していくことになる。こんぶの場合は『初めから格闘家を選べよ』とツッコミが入りそうになるが、そんな野暮なことは言ってはいけない。


「ソード君、巴君。こんぶの補助は頼んだぞ」

「はい!」


 今回、ソード君と巴君は回復薬と聖水を投げる役割を担ってもらう。心苦しいが、二人が聖水の範囲外に出て出来ることはほとんどない。


 もっとも、そういう俺が出来ることもちっぽけなものだが。インベントリから『祝福されたゴブリンの骨粉』を取り出す。


 そしてそれをソリンが植えた種に蒔く。


「骨粉に宿りし精霊よ。種を守り給え」


 種に精霊の祝福をかける。俺の役割はソリンの術の成功を早めることだ。この瘴気をなんとかするのは勿論のこと、さっさとソリンを自由に動けるようにしなければ、いよいよ俺達に勝ち目はない。


「オオオオオオオオオ!!!!」


 鉱夫の頭領のHPは一割も削れていないが、なにやら雄叫びと金切り声が入り混じった声を上げた。


 こんぶは素早く下がり、防御の態勢に入っている。しかし溜めがやや長いと察し、さらに下がってくる。


 瘴気が一瞬浮き上がり、次いで途轍もない重圧が『ズゥン』と空間にのしかかる。


 辺りが暗くて見えづらいが、おそらくは半径10mほどの範囲攻撃だろう。防御が可能だとはあまり思えない。


 重圧が解かれた後、鉱夫の頭領はいつの間にか右手にツルハシを持っていた。左手で体を支え、右手のツルハシを薙ぎ払う。


「へへっ、流石にその大振りはイージーだぜ」


 こんぶは前に跳んで回避し、流星のように鉱夫の頭領の額に拳を叩き込んだ。上手い。回避行動がそのまま攻撃の予備動作になる。攻防一致というやつだ。


「んん?」


 こんぶが訝しげに距離をとる。なにやら知らない間に無視できないダメージを受けている。


「こんぶさん! ツルハシが通った跡を見てください!」


 巴君が珍しく大声を張り上げて指差していた。目を凝らすと、禍々しいモヤを漂わせるツルハシが動くたびにモヤが残留している。


「な〜るほどなぁ。感謝するぜ嬢ちゃん」


 パチン、と指を鳴らすこんぶ。目が良い巴君だからこそ最初に気がつけたのだろう。


「動きは鈍い。攻撃は早く重い。リーチは広い。一定時間ダメージ床……いや、ダメージ空間を作る。こんな感じか」


 こんぶは後頭部に回復薬を投げつけられながら冷静に解析する。


「時間まであと3分ばかりか。案外余裕そうだぜ? 兄弟」

「フラグを建てるのはやめろ」


 ソリンが植えた種は三つ。おそらくあと一つで四角形になり、完成するはずだ。そしてそれからが本当の勝負になる。既にアイテムをかなり消費しているため、ちょっとした失敗が命とりになることは充分考えられる。


 両手を合わせて祈りを続けるソリンの術が完成した時のヘイトを想像すると、余裕なんてものは全く感じなかった。

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