15話
「そもそも俺は仲間を待っているんだよ」
こんぶの手をやんわりと払いのけ、廃墟メタルポートに視線を向ける。ソード君がこんぶとの協力を断るなら、別時間に俺個人でこんぶの協力をすることになる。
「ああ、見てたぜ? しかし見たところお仲間は初心者で、あんたがリーダー。違うかい?」
「違う」
「へえ、そりゃまたなんでだよ」
話しが長くなる気配を察したのか、こんぶはどっかりと廃墟メタルポートの入り口の石に腰を下ろした。
なんとも太々しいやつに捕まったものだ。そのまま俺を見上げてこんぶが首を傷めないかなと思いつつも、奴からちょうど良い間隔が空いた石に座る。
「きっかけはソード君にシャーマンの戦い方のレクチャーを頼まれたからだな」
「ファッションセンスは師匠には似なかったんだな」
「ついでにバトルセンスも全く違う」
「あのお嬢ちゃんもシャーマンとか言わねえよな?」
「あの子は生産職だよ。ソード君の装備はほぼ全て巴君のお手製だ」
「そいつはまた……。へへへ、見た目完全に剣士と弓兵だったけどなあ」
何が面白いのか、こんぶはたいそう愉快げに笑っていた。煙草が似合いそうな、渋い顔と笑い声をしている。
「それで? その話しの流れだとその弟子がリーダーで、あんたはずっと後ろで保護者してんのかい?」
「概ねそうだが、途中から面白くなって俺から同行許可を頼んだんだよ」
「わかるわかる。若いパワーに引き摺られそうな顔してるもんなあ、もっさん」
「その目をやめろ」
「へいへい。で、俺はもっさんの弟子を懐柔しなくちゃいかんわけだ」
言っていることは合っているが、いちいち言い方が独特だ。
「女の子は警戒心が強いから、今みたいにあんまり気軽に声かけるのはやめてくれよ」
「モチのロンよお! 多分俺ともっさんなら俺の方がモテるほうだぜ?」
「お、そうだな?」
「任せてくださいよお!!」
「悪い。今日出会ったのは忘れてくれないか?」
「いやいやいや、そこからなかったことにすんのはなしだろブラザー」
「誰がブラザーだ。ちょ、寄るな、おい、肩を! 肩を組みに来るんじゃない!!」
出会ってしまったことを後悔するくらいには、こんぶは果てしなくウザいおっさんだった。
「森の民さん。その人は誰ですか?」
こんぶのペースに呑まれていて気づかなかったが、目を丸くしたソード君が廃墟メタルポートから出てきていた。
「ずいぶんと仲が良さそうですね?」と続けるソード君に「全くの他人だ。信用するなよ」と返しておく。
「え、じゃあなんなんですかこの人?」
「それは俺から説明するぜ! 俺はこんぶ! 君らがさっき会ったソリンと同じ巡礼者で、二つ名は塞がらぬ手のこんぶ! よろしく頼まあ!!」
「あ、はい。俺はソードです」
「…………」
「こっちのは巴です」
巴君はすっかりソード君の背に隠れ、こんぶに胡乱な目を向けていた。
「もっさんからは承諾を得てるんだが、巡礼者のイベントを進める協力を頼みてえんだ。どうせなら、パーティー三人で協力してくれりゃもっさんの取り合いにならなくて助かるぜ」
「大丈夫ですよ。巴も」
「……………………」
「そうかそうか! いやー助かったぜ! ありがとな剣士君に弓のお嬢ちゃん!」
巴君は何も言っていないどころかとても嫌そうなのだが、ソード君が言うには大丈夫らしい。「本当か?」と思わずツッコんでしまいそうだ。
「じゃあ早速作戦会議といくか。サプライズがお好みなら何も教えんまま行くのもありだぜ?」
「なしに決まってんだろ」
「へへへ、安心したよ。今回戦う相手はメタルポートを廃墟にした領主の悪霊、"ルワルド=メタル伯"。ソリンがメタルポートの岬に現れるこいつと戦うとこを助太刀するってシナリオさ」
「悪霊か」
「そう! 巡礼者のイベントだからな。当然光だとか祝福だとか、そういう属性が必要になってくるわけだ」
「知っていると思うが、シャーマンの祝福は巡礼者ほどゴーストに特攻があるわけじゃないぞ?」
「それもトーゼン折り込み済みよ。メイン火力は俺とソリン、あんたらはソリンのサポートに回ってくれ。ソリンのHPが0になった瞬間、ゲームオーバーだぜ」
「イベントが最悪の結果で終わるわけか。だから張り込みなんて面倒なことをしていたんだな」
「さっすがブラザー! 話が早ええのなんの。つまりそういうことだ。この四人の中なら誰が死んでもいい。でもソリンだけは絶対に守ってくれ。それが俺の頼みだ」
力強く宣言するこんぶの目は極めて真剣なものだ。
「んじゃま、改めて宜しく頼むぜ?」
俺達を見つめるこんぶに、今回ばかりは巴君もしっかりと頷いていた。




