11話
精鋭コボルトが相手でもソード君と巴君の連携は安定している。コボルトのエリアの攻略は順調になるだろう。そうなると、次に考えるのはボスの攻略だ。
いくら二人が優秀でも、ボスを二人で攻略するというのはかなり骨が折れる。才能は勿論ある。さらに前もって情報を調べたとして、じゃあ攻略情報ではシャーマンと生産職での討伐を推奨しているかというと、そんなことは決して書かれていない。残念でもなく当然のことだ。
だから俺は率直に二人に意見を求めた。
「武器を装備した精鋭コボルトのエリアを突破したら、いよいよボスに挑戦することになる。そこではゴーレムの時と同じように、最初から俺も手伝おうと思うんだが、二人はどうだ?」
「コボルトのボスはゴーレムみたいに特殊なやつなんですか?」
「いや、効きにくい属性はあるが、普通だ」
「じゃあ、俺と巴の二人でやったらどうなると思います?」
「正直なところ、限りなく無理だろう。いくら君達にセンスがあっても、所詮はシャーマンと生産職だ。火力も耐久力も回避性能も何もかもが足りない。情報収集して最適化した動きをとったとしても、時間をかけて腕を磨き、レベリングしないと相当厳しいのは間違いないだろうな」
「なら決まりですね。デスペナくらってまで記念受験したくないですし、力を貸してください。巴もそれでいいよな?」
ソード君に聞かれ、こくんと頷く巴君。
二人の素直さは予想通りだが、記念受験ときたか。俺の"限りなく無理"という言葉をその通りに受け取らないと出てこない言葉だ。少しくらい鼻が伸びても良さそうに思えるが、まあこれも彼らの美徳だろう。
「それなら三人で攻略することを前提に考えよう。ボスの名前は"コボルト氏族の長"という名前のコボルトなんだが、外見は精鋭コボルトより一回り大きく、槍を一本持っただけのコボルトだ」
「なんか普通ですね」
首を捻るソード君。想像上の外見ではそうだろう。実際に目の前に立ってみて初めて、一回り大きいだけで変わる威圧感を知ることになる。
「見てくれは普通だ。しかしこいつがシンプルに強い。精鋭コボルトを相手にするような立ち回りで普通にやっても蹴散らされるだけだ。なので、まず俺はこの盾を両手で持って盾役をする」
「精鋭コボルトからドロップした鉄の盾ですね」
「そうだ。肩当て、肘当て、膝当ても装備する。当然素早い動きは出来なくなる。そして重要なのが、本職の盾役ほど受け切れるわけでもなければ、挑発などのスキルでターゲットを変更することも出来ないということだ。悪いが、ソード君にはある程度自衛してもらうことになる。リーチは相手の方が長いが、そのぶん直線的な攻撃が多い。ソード君なら直撃を受けない立ち回りが出来るはずだ」
「了解っス。槍を持った精鋭コボルトとはやり合えましたし、頑張ります!」
緊張気味に頷くソード君。かなり真剣だ。言葉にはしないが、俺は初見で勝てなくてもいいと思っている。コボルト氏族の長も割と事故が起こりやすいボスだ。
もし失敗しても引き摺らないで欲しい。
「そしてここからが本番なんだが、体力が25%以下になると、氏族の長は『雄叫び』と『踏み込み』を同時に行う特殊なスキルを使う様になる。『雄叫び』は相手を硬直させ、『踏み込み』は素早く距離を一歩分詰め、次の強力な突きに繋げる。受ければ一撃で体力が全て吹っ飛ぶと考えた方がいい」
「硬直させてきて素早い上に一撃っておかしくないっスか?」
「ああ」
腕を組み、神妙に頷いておく。一番事故っているのは俺達の職業編成なんだが、それを指摘するのは野暮だろう。
「だが、このスキルはキャンセルが可能だ。氏族の長が息を吸い込むような動作をしたら、巴君は積極的に急所への攻撃を狙って欲しい。このキャンセルさえ出来れば、むしろそこからはチャンスタイムだ。残りHPをかなり削りとってしまえるだろう」
「……わかりました」
「よし。後はボスエリアまで移動しつつ、精鋭コボルトを相手に三人で練習しよう」
◇◇◇
時は遡り、森の民が拠点作りに勤しんでいる頃。
【初心者シャーマンのスレ】
82:名無しのシャーマン
へえ! イッチはもうゴーレムを倒したのか!
やるじゃねえの!
83:名無しのシャーマン
シャーマン初めて三日程度でゴーレム討伐
大勲章ですよこいつあ……
84:新入りのシャーマン
はい! 44さんに紹介してもらったおかげです!
85:名無しのシャーマン
バナナ……44は不吉な数字……
ワイは悲惨なことになると読んでいたンゴ
86:名無しのシャーマン
知らんうちに失敗フラグたってたの笑えねえなオイ
87:名無しのシャーマン
これから起こるかもしれないだろ!
88:新入りのシャーマン
いや、あったら困るから新しいフラグたてるのやめてくんない?
89:名無しのシャーマン
いいや限界だ! たてるね!
90:名無しのシャーマン
俺、風呂入って田んぼの様子見に行って結婚してくるわ
91:名無しのシャーマン
>>90 お前の死亡フラグがたっても誰も得しねーよ
92:名無しのシャーマン
精霊よ……我が呼び声に応え集い、イッチを祝福し給え……
93:新入りのシャーマン
あの、シンプルに強そうなフラグたてるのやめてもらえます?
94:名無しのシャーマン
なんでや! 精霊悪くないやろ!?




