かつての忍犬の巻
流助が屋敷に戻ってみると、犬顔の男が正座して待っていた。
(亜人か)
いかに、幅広く人材を募っていると称している御剣藩と言えども、
さすがに、亜人は雇わない。
そもそも、日出ずる区では、亜人は攘夷対象となっている。
それでも、ちらほら亜人を見かけるのは、それだけ攘夷命令がこの藩では緩いためであり、
だからこそ流助も仕官できたわけだ。
ともあれ、この亜人は、藩士ではないだろう。
(新しい暗殺者か?)
アサシンギルドはしつこく流助の命を狙っているが、
それも最初だけで今ではすっかり流助に心酔している有様。
また、ギルドマスターやらになれという誘いか?と流助は思った。
(くどいな。斬るか)
流助がやおら刀を抜くと来客は驚いた。
「ご主人!何をなさるか!」
「………お前は犬か」
見覚えのある雰囲気に流助は看破し、刀を収めた。
彼は真田犬助。かつての真田忍家の忠犬であった。
流助がこの世界に転移される前に、
流助の祖父、真田百郎太によって転生され、今は亜人となっている。
「久しいな。早速だが用を頼まれてくれるか?」
「ご主人の命なら何なりと。拙者その為に参ってござるゆえ」
「日出ずる藩に向かってくれ。無乃という少女を守ってくれないか?」
「御意」
「もう死んでいるかもしれない。その場合はそれでいい。
ところで、猿はどうした?」
「猿は魔界で魔王をやっているでござるな」
「そうか。犬は何をしてるんだ?」
「拙者は、中つ区で商売をしているでござる。
何分、日出ずる区は攘夷命令があるゆえ、入るのに苦労したでござるよ」
「金があるなら、いくつか薬が欲しい」
「ほう」
「実は、この御剣藩を乗っ取ろうと思ってな」
「それは面白い。さすがはご主人。それでこそ、真田の忍びでござる」
「俺は真田忍家の当主だ。だが、じい、百郎太もこの世界に転生してきた。
百郎太も当主の座を狙っているようだ。
お前はスパイなのか?それともこちらについたのか?」
「これはご主人とも思えぬお言葉。拙者は忍びでござる」
「裏切り者の百郎太は斬る。犬。お前を斬ることも俺にとっては造作もないことだ」
「ふむ」
犬助はその言葉を聞いて少し考えてから言った。
「どうやらご主人や無乃という方が大切なようでござるな。
心配はござらん。拙者、身命を賭して無乃様をお守りするでござる」
「頼む」
「それと、百郎太様から刀を預かっているでござる。
妖魔刀、桜花【絶】。お納めくだされ」
犬助から刀を受け取ると流助は鞘から抜きそれを見た。
「魔力に対応できるように改良し、なおかつ妖力を増幅する効果があるのか」
「そのようでござるな」
「妖力解放」
流助が呟くと流助の全身から紫のオーラがあふれ出て、
神が伸びて目が真っ赤になった。と思うとすぐに元に戻った。
(この刀があれば、我が奥義『絶境流転』の完成度はまた一段と高くなる)
奥義『絶境流転』の存在はまだ誰にも知られてない流助の奥の手の一つだった。
凄まじい効果を持つが、失敗した時のリスクが高く危険な術である。
「犬。早速、薬を持ってきてくれ」
「御意」
犬助は、飛び上がって消えていった。




