忍びの極み、【夢幻洞察の理】の巻
真田忍家総出で流助の捜索が始まった。
だけではない。
既に政府から危険人物と見なされていた流助は、
他国に亡命したのではないか。
と推察され、警察やらエージェントやらその持ちうるあらゆる機関を用いて流助を捜索した。
しかし、ついぞ流助は見つからなかった。
ありうる話ではない。
仮にも日本国が国を挙げて一人の人物を捜索できないなどということは起こりえない。
その起こりえないことが起こってしまってている。
そんな中、流助はひょっこり戻ってきた。
百郎太はさすがに仰天した。
「一体どう姿をくらました?」
「そのことだ。じい」
稽古をつけよ。とこの孫は言うのだ。
それどころではなかった。
「馬鹿を言うな。お上がかんかんになっておるのだぞ」
「捜索のこと。ご苦労。さりながら税金の無駄であったことだ」
とまるで流助は他人事だった。
実のところ百郎太もそんなことはどうでもよかった。
「早う。からくりを教えよ」
とせかした。
「稽古をつければわかる」
「ふむ」
「鬼謀の限りを尽くすがいい」
「言ったな?」
智謀にかけては百郎太も自信はあった。
彼もかつて戦時中エージェントとして活躍してきたのだ。
その日から百郎太は仕掛けた。
大いに仕掛けたが遂に一つも実らなかった。
(孫の賢なることだ)
と百郎太は喜んだが、それにしてもそう簡単に人の性質が変わるだろうかとも思った。
そのことを流助に尋ねた。
流助は驚いた。
「馬鹿なことを言うな。俺の頭がいきなりよくなるか」
「しかし現にわしの手をかわしているではないか」
「あれを見よ」
流助は庭にある木を指さした。
百郎太はその木を見た。
「あれが何か?」
「10のうちにあそこにある葉が落ちる」
「はて?」
何を言ってるのだろうと思い訝しがっていると確かに葉が地に落ちた。
百郎太は愕然とした。
「どういうことじゃ?」
「我が忍術は意を洞察し変を捉える。森羅万象その全ては我が胸中にある」
「幻の秘儀、夢幻洞察の理を会得したか」
忍びの歴史上その理を会得したものはほとんどいないと言われている。
ましてここまでの技術精度で完成させたのは恐らく流助が初であろう。
「人として超えてはならぬ領域というものがある。その証拠にお上は」
お前を恐れている。と百郎太は言った。
流助は頷いた。
「公儀は俺の心臓を所望している」
「心臓などくれてしまえばいい」
「そういう話ではないことは分かっているはずだ」
流助は改造人間なので心臓の一つ二つ抜き取ったところで問題はない。
自動的にナノマシンが修復してくれるからだ。
だからそこが問題なのではなかった。
百郎太は尋ねた。
「で、受けるのか?」
「受けはしない」
「ならば抜けるか?」
その危惧はあった。流助は抜け忍になる素質が十分にあった。
「じいよ。愚にもつかぬことを言う」
「ほう」
言われて見ればすでに政府は流助の動きを追えないのだ。
抜けようと思えば流助はいつでも抜けれる。
慌てることもなかったのだ。