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第十五話 僕達の失敗





「おはようございます!」

「おはようございます、クーヴィット様」

「おはようございます、バルディン様。あの、ジェラルド様は……」


 教室に入るなり、リートはジェラルドの姿を探したが、彼と側近候補の姿はまだなかった。


「クーヴィット様、何かいいことがありましたか?」

「なんだかお顔が輝いておりますわ」


 自覚はないが、キラキラした笑顔で教室に入ってきたリートに、令嬢達が声を掛ける。


「えへへ、ちょっと……」


 リートはくりっと首を傾げた。

 ハンカチはばっちりポケットに入れてきた。後はジェラルドに完璧なお礼を言えばいいのだ。

 席に着いたリートはジェラルドが来るのを待って戸口をみつめた。その後、教室に入ってきた者は、キラキラした瞳で熱心に見つめてくるリートと目が合うので男女問わずに戸を開けた瞬間に硬直して頬を赤らめていた。

 待つことしばし。


「おはよう」


 アレスとオスカーと共に、ジェラルドが教室へ入ってきた。

 そわそわしていたリートは、弾かれたように席を立った。


「ジェラルド様!」


 いそいそと、リートはポケットからハンカチを取り出そうとした。

 そして同時に、ジェラルドに駆け寄ろうとした。


「これ、ありがとうございまっ……」


 席を立って、ポケットからハンカチを出して、ジェラルドに駆け寄って、お礼を言う。

 逸る心ですべてをいっぺんにこなそうとしたリートは、勢いがあまりまくって足がついていかず、躓いて前のめりに倒れ込んだ。


「危ないっ……」


 どさっ、と、リートは思い切り床に胸を打った――はずだった。が、痛みを感じなくて、不思議に思ってつぶってしまった目を開けた。


「う……」

「ジェラルド様!?」


 リートの下敷きになったジェラルドが、呻いていた。


「ジェラルド!大丈夫か?」

「頭、打たなかったか?」


 アレスとオスカーが駆け寄ってくる。リートは混乱する頭で、ジェラルドの顔を覗き込んだ。


「ジェラルド様!ごめんなさい!」

「い、いや……リートが無事なら良……」


 安心させるように微笑もうとしたジェラルドだったが、自分の体の上に乗っかってさらに顔を覗き込んでくるリートの至近距離に、途中で言葉を失った。


 びしり、と固まったジェラルドに、リートは不安になった。


(まさか、打ちどころが悪かったのでは?)


 リートはジェラルドの肩を掴んで、さらに顔を近づけた。


「ジェラルド様!大丈夫ですか?痛いところは?」

「は……あ……」


 近すぎる距離に、ジェラルドは意識が飛びそうになった。しかし、ここで気絶してはいけないと、気力を振り絞って意識を保った。


「だ、大丈夫だ。だから、とりあえず上からどいてく……」


 ジェラルドは、自分の体に乗っかったリートをどかそうとしたのだ。それだけだ。


 しかし、至近距離で顔を覗き込んでくるリートの顔をまともに見ることが出来ずに目を逸らし、さらに、密着した体勢で感じる柔らかい感触に頭がぐらぐらと煮え立っていて、注意力が散漫になっていた。


 だから、誓ってわざとじゃない。


 リートの肩を掴んで上からどかそうとしたジェラルドの手は、目測を誤って別な場所に着地していた。

 むにっ と、無いなりにそれなりにやわらかなそこに。


「…………」

「……んっ」


 胸を揉まれたリートの口から、小さな声が漏れた。


「う……うわああああーっ!」


 ジェラルドの絶叫が教室に響き渡った。


「うわああああああっ」


 ジェラルドは目にもとまらぬ速さでリートの下から抜け出し、そのまま教室から走り出ていった。


「ジェラルド!どこ行くんだ!」

「授業が始まるぞ!」


 アレスとオスカーが慌てて追いかけていく。

 後に残されたリートは、ぽかん、としたまま床に座り込んだ。


 今、何があったのだろう。自分の手とは違う熱くて大きな手が、自分に触れたような。


 どこに?


「……う……うあぁぁぁ」


 リートは頭を抱えて唸った。




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