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そしてまた暇つぶしのはじまり

作者: tani

ほおずき団地の今日のお話。

 団地という場所はおもしろい。色々な人が住んでいて、みんな何かしらの事情を抱えている。


 201号室に住む小学生の男の子は、恥ずかしくて好きな女の子に話しかけられないという可愛らしい悩みを抱えている。

 お隣302号室のおばあちゃんはいつも黒い傘を持ち歩いている。聞くと「あの人寒がりなのよ」とにこにこと話してくれる。旦那さんは何年も前に他界された。

 違う棟に住むおとなしそうな女子高校生はある日突然髪を金髪に染めた。思い切ったなあと驚いた。

 

 そう、みんな何かしらの事情を抱えている———誰かに恋をしているのだ。


 僕は物心ついたとき、正確には幼稚園の先生に初恋の気持ちが芽生えたときから、人間観察をするようになった。そんな僕の最近の趣味、というか暇つぶしはある人物の観察である。その人物というのが、真上の部屋、401号室のあの子である。

 

 剣道部の主将を務めているらしく、いつも竹刀を携帯している姿が印象的だ。武道に励んでいる人というのはなぜあれほどかっこよくみえるのか。まず歩き方が僕とは全然違う。背筋が伸び、視線がまっすぐ伸びている。ちなみに僕の脳内では凜さんと呼んでいる。

 この凜さん、サッカー部のキャプテンのことが気になっているらしい。脳内ネームはつばさ君である。ほおずき団地の前を通るバスを凜さんもつばさ君も利用しており、親し気に話している姿を見かけた。…かなりいい感じであった。それ以来気になって凜さんを観察しているのだが、なんせ階が違うのであまり会えないのだ。たまに会うとこんな僕にでも丁寧に挨拶をしてくれる。いい人だ。


 ある日バスに乗っていると例の二人を見かけた。…いい感じである。僕に気が付いた凜さんがぺこりとおじぎをする。慌てて僕もそれに応える。つばさ君も気を使ってぺこり。いい人だ。

 すぐに団地の前に着き、凜さんとともにバスを降りる。凜さんは気さくに話しかけてくれ、少し照れ臭そうに言う。つばさ君とお付き合いを始めたらしい。そのまま会話を続けながらA棟共用の階段を上り、3階についたところでさようならを言いその場を後にした。


 靴を見ながら歩いて301号室にたどり着いた時、お隣の部屋から一人の女性が出てきて、

「初めまして。祖母が心配で同居することになりました。」

と、挨拶された。僕が帰ってくるのを待っていたようだ。ひまわりのような笑顔に思わず顔に熱が集まる。



 僕の人間観察はこれからも続きそうである。



恋が実るといいですね。


ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。

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