ユウとアリア②
会話が途切れユウとアリアの間に重い沈黙が流れる。そんな二人の視線の先では外で作業をするスタッフ達の姿や様々な機械が運搬される様子が広がっていた。
すると、ユウがふと口を開いた。
「俺、ここから眺める外の風景が好きなんです。先日たまたまここを見つけて……うまく言えないんですけど、ここにいると何処か懐かしい感じもして落ち着くんです。変ですよね、過去には興味はないと思いながらも、心のどこかでは求めている自分もいる。そんな矛盾を抱えたまま前に動き出せない。それが俺なんです」
「……私もこの場所が気に入ってるの。昔住んでいたコロニーにここと似た場所があって、そこから見る風景がとても大好きだった。私にとって特別な場所だったわ。――人は皆、心のどこかに矛盾を抱えて生きていると私は思ってる。私もそうだし。だから、自分をそんなふうに言わないで」
アリアに慰められたユウは目を見開いて、隣に座っている女性をまじまじと眺める。しかし、それは失礼に当たると気付き謝罪するのであった。
「す、すみませんでした。無遠慮に見てしまって」
「いいえ、私は気にしていないので大丈夫よ」
「それなら良かったです。――でも何か不思議ですね。艦長とちゃんと話をするのは初めてのはずなのに何処か落ち着くというか……懐かしい感じがするというか……」
「アルマ少尉、それってナンパの常套句よ。トータス少尉じゃないのだから。――それじゃ、私はそろそろ失礼するわね。ブリッジに戻らないと」
「あ、はい。ありがとうございました」
ユウが見送る中、アリアは展望室から出て行った。するとさっきまでアリアがいた付近に透明の雫が宙に浮いているのを見つける。
ユウが指でその雫に触れると微かに残った温もりを感じた。
「これは……涙か。どうしてこんな所に?」
それから二日以上が経過し、その間<エンフィールド>の修理は順調に進んでいった。
その様子をブリッジから観察していたアリアとルーシーは、<ナイチンゲール>の設備とスタッフの優秀さに感心していた。
「あの損傷がほとんど治ってる。ドック艦の名は伊達じゃないわね」
「それと並行してオービタルトルーパーのメンテナンスも行われているわ。ローテーションを組んでメカニックの負担軽減を最優先にしているからもっと時間がかかると思っていたけど、明日には修理が完了するみたい」
そう言って遠い目をしているアリアを見るとルーシーは心配そうな顔で彼女を見つめていた。
「どうしたのアリア、最近様子がおかしいみたいだけど何かあった?」
「えっ……そんな事はないけど……私そんなに様子が変かしら?」
「二、三日ぐらい前から時々何か考え事をしているでしょ。心ここにあらずって感じ。訓練生からいきなり戦艦の艦長になったから環境の変化に戸惑っているとか?」
「うん、それもあるけど……色々とね」
再び考え事をするアリアに対しルーシーは胸の前で腕を組んでブリッジの壁に寄りかかり溜息をついていた。
「これ以上は詮索をするつもりはないけど、何かあったら遠慮しないで私に相談しなさいよ。アリアは一人で考え込むクセがあるんだから」
「ありがとう、ルーシー」
それからしばらくの間、アリアとルーシーは黙ったまま外で行われている修理の状況を眺めていた。
すると、ルーシーがある人物の話題を出した。
「あ、そう言えば最近ケイトに会った?」
「いいえ。数日前に食堂で一緒にご飯を食べてから会ってないわ。今は<エンフィールド>の修理とオービタルトルーパーのメンテナンスで整備班は忙しいから……」
「というより、メカオタクのケイトの事だから休憩中とかも格納庫に入り浸ってんでしょ。<Gディバイド>の整備チームに入れたって喜んでたわよ」
二人が話している人物――ケイト・アンダルシアは『シルエット』の養成所でアリアやルーシーと親しくしていた女性だ。
養成所では、アリアは士官候補生、ルーシーはオペレーター、ケイトはメカニックとして訓練し三人共<エンフィールド>への配属となったのである。
ちなみに彼女たちを推薦したのは、当時養成所の教員であったアルバスであった。
「私の話でもしていましたか?」
「「――っ!?」」
突然会話に入って来たのは副長のアルバスだ。いつものように好々爺然とした風貌で二人の前に現れたのである。
彼が会話に入ってくるまで気配を感じなかったのでアリアとルーシーは驚きの余りに声を出すことも出来なかった。
「ふ、副長いつの間にここへ? 全く気配を感じませんでした」
「はははははは、これでも長年軍人をやっていますからな。自然と気配を殺す所作が身に付いているのですよ。――お二人共、アンダルシア伍長が気になるのでしたら格納庫に行ってみてはどうですか? ブリッジには私がいるから問題ありませんし、たまにはここ以外の部署に顔を出してみるのもいいかと思いますよ。美女二人が現れれば、整備班の士気も上がるでしょう」
「もう、そんな美人だなんてぇ……マコーミック副長は正直者なんだからぁ。それじゃ早速行きましょうか、艦長」
「ルーシー……」
「ルーン軍曹はノリがよくて面白いですな。艦長も彼女のノリの十分の一でもあればモテモテ度アップ間違いなしですぞ」
「はぁ、そうですか……」
こうしてアルバスに送り出される形でアリアとルーシーは格納庫へ顔を出すことにしたのであった。




