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白き死神のGディバイド  作者: 河原 机宏


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エンフィールド発進①

 <エンフィールド>は強力な武装を搭載しており、戦闘力に優れている。だが、クルー達は練度が低い上に、艦を守るオービタルトルーパーが1機もいない。

 この状態でいきなり敵艦隊と戦うのは自殺行為に等しい。機動力の高い敵のオービタルトルーパーにタコ殴りにされる未来が皆の頭に浮かぶ。


「大丈夫です。本艦にもオービタルトルーパー隊はいます。ただ……まだ合流していないだけです」


「艦長はこの状況で彼らが逃げずに本艦と合流しようとするとお考えですか?」


「はい! 必ず彼らは来ます」


「……根拠は?」


「それは今までの彼らの戦闘記録からの推察と……私の女としての勘です」


 それから間もなく、<エンフィールド>は出港準備に取り掛かっていた。

 アリアの〝女の勘〟発言に最初は驚いていた皆であったが、理知的な雰囲気漂う彼女から放たれた予想外の根拠にかけてみようと思ったのである。

 艦内では、各部署にてクルー達がせわしなく動いている。出発前の敵からの襲撃に不安感が艦内に広がっていた。

 そんな折、ピンポンパンポーンと緊張感のない音が艦内に響く。その学校の放送で流れるような音が終わった後に女性の声が流れ始める。

 それは、<エンフィールド>艦長アリア・ルミナスのものであった。


『全クルーの皆さんお仕事お疲れ様です。私は艦長のアリア・ルミナスです。皆さんご存知の通り、現在ベルファストは『地球連合軍』の攻撃を受けています。狙いは十中八九、本艦と思われます。このままでは、ファクトリーへ攻撃が集中し、友軍が全滅しかねません。……なので、本艦はただちにベルファストの外に出て、『地球軍』との戦闘に入ります。いきなりの実戦になりますが、各々全力を尽くし目の前の脅威を振り払いましょう。…………私達は元々、様々な事情を抱えてこの艦に集まった者達です。本来ならこのような最新鋭艦には縁が無かったでしょう。……かくいう私も、以前『シルエット』高官の子息に平手打ちをかまして出世街道から外れていた身です。まともな配属先もない状態でした。そんな私が今ここに艦の長としているわけです。……この先、自分達がどうなるかなんて分かりません。でも生き延びなければ、それすらも目にする事が出来ない……だから、皆さんの力を貸してください……以上です』


 彼女の全艦アナウンスが終了した後、先程まで艦内に充満していた不安感は払拭ふっしょくされていた。

 彼女の言葉は日陰者として過ごしてきた彼らの心に大きく響いたのである。


「……はぁ、ちょっと緊張したわね」


 アリアの顔は少し上気していた。


「いやいや、今の演説すごく良かったわよ。私が男だったらまず間違いなく、惚れてるわね!」

 

 ルーシーが鼻息を荒くしていると、同じオペレーターのメイも目をキラキラさせながら激しく頷いている。

 そんな2人の反応に「ありがと」と短く言うと、アリアの表情は一気に勇ましいものになる。


「……それでは、<エンフィールド>はこれより発進準備に入ります。トライターミナスリアクター起動! ファクトリーとの全連絡路封鎖、同時に各ケーブル分離」


 アリアが命令をすると、それに伴い各ブリッジクルーが担当する部門の確認をしていく。


「……トライターミナスリアクター起動開始。出力安定、問題ありません」


「ファクトリーとの全通路封鎖、隔壁閉じます。ファクトリーとの全ケーブル外れます」


 <エンフィールド>とファクトリーを繋ぐアンビリカルケーブルが外れていき、接続部のシャッターが閉じられていく。


「ターミナスエナジー、80%充填完了。なおも充填中、全艦異常なし」


「第1、第2、第3メインスラスター問題なし……いつでも行けます」


「了解、では本艦はルート6にてコロニーの外に出ます」


「了解、コロニー外壁までの各ブロック隔壁解放、リフト稼働します」


 <エンフィールド>を固定しているハンガーが動き出すと同時に、下方にある隔壁が解放されていく。

 コロニーの外壁までは複数のブロックが存在しており、各ブロックを通過する連絡路は外からの侵入防止用に隔壁が設けられている。

 この隔壁さえ開いてしまえば、あとはリフトによって最短距離でコロニーの外壁に到達し、そこから宇宙へと出られるのである。

 これが緊急脱出経路であるルート6の全容である。<エンフィールド>はリフトに固定されたまま移動を開始するのであった。

 それに驚いたのはファクトリーの職員達であった。リフトが稼働し、<エンフィールド>が逃亡するのは、もっとコロニー内に敵を誘い込んでからという手筈であったからだ。

 ファクトリーの責任者であるレナルド・ファーセットは急いで回線を開いていた。

 <エンフィールド>のモニターには慌てふためくレナルドの顔が映し出されている。


『<エンフィールド>! 動くのが早すぎる! 今出て行けば、敵の攻撃に晒されるぞ! 今すぐにリフトを止めて待機するんだ!』


 ブリッジ内に彼の怒号が響くが、それでもリフトは動き続け、艦を真空のそらへといざなう。


「ファーセット工場長、本艦はこれよりコロニーの外に出て戦闘を行います。それで、そちらへの攻撃が和らぐはずです。その後は何とかしのいでください」


『なっ! まさかそのために? しかし、いくらその艦でも護衛なしでは危険すぎる!』


「危険な事ならこの先にいくらでもあるはずです。そして、今回もそうであったというだけです。……そろそろ外壁に到着します。我々は発進します。……ありがとうございました」


 <エンフィールド>のブリッジクルー達は皆、腹をくくったという表情をしている。

 これ以上とやかく言うのは彼らの決意に水を差すだけであるとレナルドは思い直すのであった。


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