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クレジットカードの現金化

 夕暮れ、砂漠の街。

 砂も街も、なにもかもが赤く染まっていく。

 その中を幸太郎たちは、足早に市場へと向かう。



「…遅かったか」



 市場のテントはもぬけのから、あるいは片付けをしている最中だ。

 燃料を使ってまで明かりを灯しても、それでは採算が合わないのだろう。日暮れが店じまいだ。



「ちょっとまずいな…」



 少し慌て、足早に見回る。

 するとひとつの露店を見つけた。


 ガラクタばかりの露店だ。土産物、民芸品、切れそうにないナイフ、怪しい石、謎の彫像。汚い羊皮紙。


 どこかふてくされたような表情の店主は、まだ引き上げる様子はない。



「…あれでいい」



 幸太郎はダンジョンねこに囁きかける。



「あそこで現地の金を手に入れるか」



 ダンジョンねこは不思議そうに、幸太郎を見上げる。



「でも、朝出た大金貨があるよ?」


「…んー」



 幸太郎はひとしきり唸った後、答えにくそうな困った顔で答える。



「まあ、ダンジョンねこが試してみたいなら、俺は大金貨を出してみてもいいんだがな」



 ダンジョンねこはプイと横を向いてしまった。



「別に?」



 へそを曲げている。



「…悪かったって。それよりダンジョンねこ。ちょっと力を貸してくれ」


「なあに?」


「合図をしたら近くに行って、じっと店主を見てくれ」


「さっきの御利益(ごりやく)が欲しいんだよ」



 悪そうな顔をしている幸太郎を、ダンジョンねこはじっと見上げる。



「別にいいよ?」


「助かるよ」




 そう言うと、幸太郎は大股でスタスタと露店に近づいていった。




「よう、儲かってるかい旦那」



 店主は幸太郎を一瞥し、そっけなく答える。



「…もう店じまいだよ」



 幸太郎は意にも介さず、馴れ馴れしく続ける。



「実は旅の途中でな。路銀が着きちまったんだ。外国の珍しいもの、買ってくれないか?もちろんあんたの目利き次第でいい」


「他をあたりな」



 目をそらす店主。



 幸太郎が背中越しに、手をひらひらすると、ダンジョンねこがスタスタと寄ってきた。

 そしてダンジョンねこは、店主をじっと見上げた。


 店主は面食らったように目をパチパチさせ、ダンジョンねこを見る。



「ああ」



 幸太郎は肩をすくめ、続ける。



「俺の連れだ。この街のうまいものを食わせてやりたくてな」


「…猫か」



 店主はため息を付き、幸太郎を直視した。



「…少しだけだぞ。少しだけつきあってやる」



(ほんと、御利益(ごりやく)あるね)



 幸太郎はほくそ笑む。



 ◇



「例えばこれ、興味ないか」


「…なんだそれは。変わった札だな」



 幸太郎が革のカード入れから取り出し差し出したもの。

 意匠が凝らされ、チップが埋め込まれたプラスチックのカード。



 クレジットカードだ。



「魔法のカードだ」


「はん」



 店主は興味を失って、手であっち行けとジェスチャーする。

 幸太郎はニヤリと笑い、押し込むようにそのまま続ける。



「こいつはな、店につけを効かせる魔法がかかったカードなんだ」


「うちはつけはやってねえ。見りゃ分かるだろ」


「コイツの魔法はな。店側が取りっぱぐれないようにする魔法なんだよ」


「なに?」



 店主は怪訝な顔をする。



「じゃあお前が使う意味がねえじゃねえか」


「だがな、こいつがあるなら一見(いちげん)の店でもつけが効く。魔法に対して信用があるんだよ」


「…へぇ」


「おもしろいだろ」


「…まあな」


「いい意匠だろ。持ってみてくれ」



 差し出されたカードを、店主はこねくり回す。



「見たことがない素材だ」



 ジロジロと裏表の柄を見て、番号の凹凸を触る。



「確かに意匠もいい」


「リボ払いにも出来る」


「…なんだいそりゃあ」



 幸太郎は凶悪な顔で、ニヤッと笑った。



「呪いさ」


「…おい!!」



 店主はカードを放り出してしまった。



 幸太郎は意にも介さず、落ちたカードを拾う。



「残念ながらこの魔法は、うちの国や近くの国でしか使えなくてな。そりゃそうだろ?店が魔法のことを知らなければ使いようがない」


「どうだい、あんたが旅の連中に売りつけるのは。これからこのカードが使える国に行くやつも、もしかしたらいる()()()()()()



 店主は引きつりながらも尋ねる。



「…呪いの話は?」



 幸太郎は真剣な顔で答える。



「魔法も呪いも嘘じゃない」



 そして相好を崩し、肩をすくめた。



「ま、ここじゃただの綺麗な札だな。どうだい、買わないか」



 ◇



 店主は胡散臭げにカードと幸太郎の顔を、交互に見る。

 そしてボソリと、切り出した。



「…口の減らねえやつだ」


「銅貨が5だな」



 幸太郎は大げさに、カードを引いて上に差し上げ、声を張り上げた。



「10倍でだって売れるだろ!美術品としたって大したものなんだ」


「価値が分かる奴相手なら、50…いや、その100倍だって」



「わかった」



 店主はため息を付き、鋭い目つきで幸太郎をギロリと見る。



「わかったよ。銀貨が2だ」



(まあ、落としどころか。ここでは実際、見た目以外の価値なんかないんだ)



 幸太郎は愛想よく、店主に答える。



「ああ。それでいい」


「どうも」



 差し出したカード。

 店主は素早くひったくると、懐に仕舞う。



 幸太郎を一瞥すると、素知らぬ顔で目線を外す。



 そして店主は、店の片付けを始めた。

 行李(こうり)に商品を仕舞い始める。




 もはや幸太郎に目を合わせようともしない。




「ねぇ」



 ダンジョンねこが言う。



「ごまかしちゃう気だよ。このひと」


「そのようだ」



 幸太郎は肩をすくめ、ダンジョンねこに向かってニヤリとウインクする。



「まだ続きがあるさ。まあ見てなって」

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