表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/23

オアシスの街に着きました

 カラやんが指し示す方向に、ダンジョンを延長し続ける。

 すると、幸太郎が頼んでいた案件を、ダンジョンねこが伝えてきた。



「魔力が11溜まったよ、コータロー」


「わかった」



 幸太郎は歩みを止め、ダンジョンねことカラやんを振り返った。



「よし、今日はここまでだ。『トレジャーボックス設置』」



 ガタンと音を立て、少し細長い宝箱が床に落ちる。

 …猫缶が入っていた小さな宝箱ではない。

 ダンジョンねこは残念そうにし、幸太郎を見上げた。



「開けないの?」


「後でな。『水場設置』」



 魔力を1使い、壁に水場を設置する。

 設置された水場は石製のシンクで、こんこんと水が湧き出している。



「…あーあー」



 シンクからダバダバと溢れてしまった。

 床に水がどんどん広がっていく。

 カラやんは水が苦手らしく、そそくさと離れていく。



「『ダンジョン編集』」



 床に穴を開け、下の砂地に溢れた水を染み込ませる。



 溢れ出る水で空き缶やタブレットを洗う。

 そして空き缶に水を汲んでダンジョンねこにやり、自分もガブガブと水を飲んだ。



 水は口当たりがよく、よく冷えている。

 とても美味しい。



「…うまいな、この水」


「ダンジョン水として売れるんじゃないか」



 ペチャペチャと水をなめながら、ダンジョンねこは自慢気に言った。



「水には気を使っているよ」


「お前んちだもんな」



 カ○リーメイトを分け合って食べた(カラやんも美味しそうに食べた)後、柔らかい床で一眠りする。



 目が覚めたあと、幸太郎は即座に『トレジャーボックス設置』を使った。

 細長い宝箱の横に、小さい宝箱が落ちる。



「どうだ。二連ガチャだぞ」


「よくわからないよコータロー?」



 幸太郎をじっと見つめ、小さい宝箱をふんふんと探る。



「でもたのしみなのはわかるよ」


『ォー』



 カラやんも楽しみそうに体を振った。


 ダンジョンねこは期待を込めてフンスと幸太郎を見つめる。



「あれは出るかな?」


「猫缶か?…出るといいな。なら、まずはこっちだ」



 昨晩出した細長い宝箱に手をかける。



「よし、開けるぞ。『トレジャーボックス』、オープン!」



 中身は金属製の杖のような物が入っていた。尺は短く、先端には装飾が施されている。



「…なんだ?棍棒か警棒か」



 ダンジョンねこはちらりと見て、即座に答えた。



「それは知ってるよ。『ファイアーボールのワンド』だね」


「思いきり振ると、ファイアーボールの魔法が使えるよ」


「ふうん」



 猫缶や笑い袋はわからなかったようだが、これはすぐに答えが帰ってきた。



「わかるのとわからないのがあるんだな」


「コータローが変なの出すから悪いよ」


「変なのか」



 そして小さな宝箱を開ける。



「こっちは…デカイ金貨か」


「『大金貨』だね」



 直径5センチほども有る金貨だ。分厚く、重い。

 人里に出た後、役に立つだろう。



「なんだか普通だな」



 地球産らしき奇妙すぎる宝。あれはあれで困るが。

 だからといって普通のダンジョン的な宝が出てしまうと、幸太郎は微妙な気分になってしまった。

 幸太郎的にはハズレの部類だと感じる。

 ダンジョンねこも残念そうに手をつっこみ、テシテシと大金貨をもてあそんでいる。



「こんなのより猫缶を出して」


「そうだな。運が良ければな」



 ◇



「ダンジョンねこ魔法はこんな感じだよ。忘れてるのがあったら後で言う」


「わかった」



 道中。ダンジョンねこ魔法について、道すがらに解説を受ける。



 ドアや階段、水場などの設備を設置したり、操作する魔法。


 罠を設置する魔法。これは『出っ張り設置』『警報設置』などのよわい魔法から、『槍衾設置』『ギロチン設置』などの致死性の高いものまで様々だ。

 即死級の罠はスゴイ魔法、致死性の高いダメージ罠は強い魔法、『トラバサミ設置』『落とし穴設置』などのふつうの罠はふつう魔法、と、だいたいの威力で分けられているようだ。


 そして範囲指定できるゾーン系魔法。『ダークゾーン設置』『ウォーターゾーン設置』『移動床ゾーン設置』『毒ガスゾーン設置』など様々だ。

 一気に広範囲に設置できる分、トラップ魔法より魔法のランクは1段階高い。


 それらはすべてダンジョン内にしか設置できない。まずは基本となる『ダンジョン作成』が必要だ。



(ダンジョン内で戦うときは、トラップ魔法もゾーン魔法も有用のようだが)


(…外でとっさに使えるのは『ダンジョン作成』を壁にするぐらいだな…)


(まあ、人前で使わざるを得ない場合でも、石壁を作る魔法とでも言っておけばいいだろう)


「…これで俺も、ダンジョンねこ魔法マスターだな」


「じゃあコータロー、試して練習しておく?ゾーン系やトラップ系は自分が巻き込まれると危ないのも有るし」


「ダンジョンねこ、気持ちはありがたい」



 ダンジョンを掘り進めながら、幸太郎は肩をすくめた。



「…だがもう少しでガチャの分が溜まりそうだ」


「ダンジョンねこはどっちがいい?」



 ダンジョンねこは首をひねり、真剣な口調で言った。



「…じゃあ試さないほう」


「そうしよう」


『ォー』



 横を行くカラやんが振り向き、声をかけてきた。



「そろそろだって」


「よし、地上に出るか」



 ◇



 目的の地に着いたのは夕方になった。もう日は低い。

 ダンジョンを上に伸ばし、螺旋階段を登る。

 横壁を透明にした後、地上であることを確認して出入り口を開けた。


 遠くに見える、建物とテントの群れ。

 そしてかすかに見える人の流れ。



「…オアシス都市か」



 砂漠のど真ん中に緑が広がっているのが見える。水場が有るのだろう。

 建物とテントは、その緑を取り巻くように建っている。



「カラやんはこの辺に巻き付いておいてくれ」


『ォォー』



 カラやんを左腕、スーツの上に巻き付かせ、腰のベルトを緩めて『ファイアーボールのワンド』を挟む。



 辺りは夕暮れになりつつある。

 街に壁や門番などは無いようだ。

 周りは一面の砂漠だ。わざわざ大軍で攻めてくるものなどいないのだろう。


 建物は少なく、ほとんどが大きなテントだ。

 ラクダのような生き物が、結構な数繋がれている。

 大きな隊商が駐留しているようだ。

 …おそらく貿易の中継地なのだろう。



「すみません」



 幸太郎は通りすがりの男に声をかける。



「……ああ?」



 帰ってくる、冷え切った胡乱気な声。



(言葉は通じたようだ…が…まずい空気だな…)



 男はゆったりした服をまとい、ゆったりした布を頭に巻いている。

 日光を防ぎ、通気性を良くしているのだろう。

 腰には短い曲刀が差してある。



 髭面で強面の男は、するどい目つきで幸太郎を観察する。

 幸太郎のスーツや鞄を、ジロジロと舐め回すように見ている。



 …警戒されている。



「なんだい?あんた。変なかっこして…怪しいやつだな」


「遠い外国から来たところでね」



 弁明する幸太郎の影から、ひょい、とダンジョンねこが姿を表す。



「…猫か」



 男は目を細めてダンジョンねこを眺め、強面を和らげた。



「あんたのツレかい」


「そう。かわいいだろ」


「…そうだな」


「悪いんだが、市場ってどっちだい」


「あっちだ」



 緑に沿った街並みを指し示した。



「もう夕方だよ。ほとんど閉まってるんじゃないのか」



 幸太郎はペコリと頭を下げた。



「ありがとう」


「ああ。じゃあな猫ちゃん」



 男はダンジョンねこに手を振り、去っていく。

 幸太郎はダンジョンねこを一瞥し、言う。



「人気あるな?ダンジョンねこ」


「それほどでも?」



 ダンジョンねこは、自慢気に答えた。


 日が暮れかけている。

 市場はおそらくすでに、たたみ始めていることだろう。


 

「よし、急ごう」


「いいよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ