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激闘、サンドワーム

 ダンジョンを作りながらひたすら走る、幸太郎とダンジョンねこ。

 その後方から追いかけてくる、遠い唸り声。

 作った通路が次々と破壊されていく音。



『オオオオオ…オオオオオ…』



 バキバキと石の通路を押し広げ、みっちりとダンジョンに詰まったその口腔。

 破壊による死をもたらすそれは、ふたりに猛然と肉薄してきている。



「サンドワーム!砂漠の化け物大ミミズ!」


「くわしいね、コータロー」


「あてずっぽうだよ!」



 全幅3メートル。全長不明。

 砂色の表皮を持った大ミミズだ。

 大きく開いた口腔内は肉の段となり、細かい牙が螺旋のように並んでいる。



(ミミズと言うよりか…ヤツメウナギみたいだな!)



 ちらりと振り返るとすでに、猛然と迫る口腔内がよく見えた。

 後ろに続くその体長がどれだけあるかは、想像もつかない。



 そしてその口腔の接近は、幸太郎とダンジョンねこの走る速度より、ずっとずっと速い。



 逃れ得ぬ死が急速に、幸太郎たちの背に迫る。



 必死になって、幸太郎は叫んだ。



「追いつかれるぞ!!」



 ひょいひょいと幸太郎に合わせて走るダンジョンねこは、脳天気な声で答えた。



「コータロー、とりあえず壁を出したら?」


「『ダンジョン編集』か!?」


「よわい魔法『ダンジョンウォール設置』で、壁だけ出せるよ」


「そうしよう!」



 床を滑りながらも振り返り、迫りくるサンドワームの口腔に向けて、幸太郎は手をかざした。


 サンドワームは、いまやふたりの直ぐそばにいた。

 迫る螺旋の牙。

 押しつぶす質量。

 確実に死を呼ぶ直進。




『オオオオオオオオオ!!』




 轟く唸り声が、幸太郎の身を震わす。

 その身が起こす破壊の振動とともに、壁が音波でビリビリ震える。



 幸太郎は一歩も引かず、高らかに唱えた。



「『ダンジョンウォール設置』!」



 激しい衝突に、ダンジョンが震える。

 パラパラと細かい破片が落ちる。



 ガリゴリ、ガリゴリと石を削る音がする。



「…っ…」



 幸太郎は後退(あとずさ)りする。

 振動が強くなり、設置した壁から嫌な軋みが聞こえる。

 たちまちヒビが、壁全体に広がった。




「だっ…駄目だ!保たないぞ!!」




 ガバァンと音を立てて、サンドワームが壁を突き破った。

 破片が飛び散る中を、死の口腔が迫った。



「ああ」



 幸太郎はメガネを光らせた。



「『ダンジョンウォール設置』、『ダンジョンウォール設置』、『ダンジョンウォール設置』」



 少し下がりながら、幸太郎は連続で壁を出した。



 遠い衝突の音。

 そしてあたりは静かになる。



 幸太郎はつぶやいた。



「ありがとう元就(もとなり)



「…モトナリって誰?ともだち?」



 ダンジョンねこがすぐ足元で、怪訝そうににゅっと覗き込んでいる。

 幸太郎は苦笑いで肩をすくめる。



(会ったことは無いな)


「まあ、今だけは心の友さ」



 ダンジョン全体はいまだカタカタ、カタカタと振動している。

 並べた壁の向こうから聞こえる掘削音が、少しずつ大きくなっている。



「…もう少し足しとこう」



 幸太郎はさらに壁を3枚足した。



「悪い顔してるよ、コータロー」



 ダンジョンねこが、幸太郎を見上げたまま言う。

 幸太郎は余裕を取り戻し、考え込んでいた。



「なあ、ダンジョンねこ」


「なぁに」


「…あいつ、あの大ミミズ」



 メガネをクイ、と動かして言う。



「食えるかな」


「えー」



 ダンジョンねこは首を傾げ、壁の向こうを眺めた。

 幸太郎は真顔で言う。



「火を通せばいけるんじゃないか」


「やっつけたらね?」


「罠を設置するダンジョンねこ魔法があるって言ってたよな。あいつを倒せる強力なやつは有るか?」


「デストラップ『ギロチン設置』とか?」



 通路の上から巨大な鉄の刃を落とす罠だろう。

 その大きさ次第では、サンドワームを両断出来るかもしれない。



「強そうだ」


「つよい魔法じゃないよ」



 ダンジョンねこはよそ見をしながら言う。



「スゴイ魔法だよ」


「…10消費のほうか。じゃあ駄目だ」


「つよい魔法やふつう魔法でも、工夫すれば戦ったり捕まえたりする方法はあると思うよ」


「ふむ」



 幸太郎は顎に手を当て、考え込む。

 無精髭が少し、伸びてきている。



「…俺ら、結構な時間歩いたよな。俺の魔力は今いくつだ?」


「8あるね」


「おお」



 幸太郎は小さくグッとガッツポーズをする。



「もう少しで『トレジャーボックス』が引けるじゃないか!」


「コータロー?」



 ダンジョンねこが、真顔で見つめた。

 幸太郎は決意とともに壁の向こうを眺め、段取りを考える。



「…よし」



 ◇



「ここでコの字にカーブ」


「ここでクランク」



 ふたりはダンジョンを作りながら進んでいた。

 真っ直ぐではなく、複雑に蛇行して。


 破壊の音が背後から聞こえてくる。

 幸太郎は素知らぬ顔で、後ろに壁を出しておく。



「遊んでるのコータロー?」



 ダンジョンねこが不思議そうに尋ねる。

 幸太郎には作戦があった。



「いやな、あのサンドワーム、気持ちよくまっすぐ突進してきてただろ」


「俺らが作った通路を気持ちよーくさ」


「だから嫌がらせしてやろうぜ」


「えー」



 ダンジョンねこは真顔で幸太郎を見上げる。

 幸太郎は気にせず、ダンジョンの拡張を続ける。



「それにさ、あいつミッチミチに詰まってたじゃないか」


「あの後ろの体がとんでもなく長いなら、こんがらがれば詰まっちゃうんじゃないかな。下りスロープからのねじれるような三次元カーブ」



 ダンジョンねこは幸太郎を見上げながら、気の毒げにつぶやいた。



「みみずかわいそう」



 幸太郎は生き生きと笑っていた。



「ハッハッハ。螺旋階段で急上昇、からの反転二回ひねり」


「悪い顔してるよコータロー」



 しばらくはしゃぎながらダンジョンを作っていると、背後の破壊の音が止まっていることに気がついた。


 オオオオオ…オオオオオ…


 その声は、どこか哀れに聞こえる。



「詰まっちゃったんじゃないの」


「クハハハ」



 高笑いとともにメガネを光らせ、幸太郎はニヤリと笑った。



「魔力を使わずに勝ったな」


「これでガチャの…『トレジャーボックス』の魔力を温存できたし」



 肩をすくめ、ダンジョンねこに振り返る。



「ご飯も食える」



 ダンジョンねこは、真顔で幸太郎を二度見した。



「やっぱりみみず食べるの?ほんとに?」

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