ログインボーナス
「クハハハハ!ログインボーナスだっ!!」
寝ぼけ眼で幸太郎は大仰に叫び、『トレジャーボックス設置』を使う。
小さな宝箱がコトンと落ちた。
寄ってきたダンジョンねことカラやんが、首をかしげる。
「そのセリフはなに?コータロー」
『ォ』
「…俺は朝弱くてな…」
幸太郎はつぶやきながらメガネを掛け、頭を振る。
ダンジョンねことカラやんが、反対側に首を傾げた。
宝箱の中には一枚の、薄っぺらい銀色のカードが入っていた。
「…なんだこれ」
「なにこれ」
『ォー?』
三人は頭を悩ます。
幸太郎にもダンジョンねこにもわからない。もちろんカラやんにも。
ひとしきり悩んだ後、幸太郎は言う。
「俺の世界のものと、ダンジョンねこの世界のものが出たよな。だったらこれも、知ってるやつがいるはずだ」
「だれ?」
「俺と一緒に跳んできたやつだろうな。おい、起きろサリー」
バンと強く内ポケットをたたく。
『…んぁ?』
寝ぼけた声が帰ってきた。
スマートフォンを取り出すと、画面でサリーのアバターがふにゃふにゃ言いながら目をこすっていた。
『…あ、どーも幸太郎サマ?わたし朝弱くて…』
『…襲うなら今がチャンスですよぉ…』
「生憎俺も朝が弱くてな」
『…残念ですぅ…』
しょぼしょぼ目を両手でこすっている。
幸太郎は銀のカードにスマートフォンのカメラを向ける。
『あ、「スキップチケット」ですねそれ』
「…なんだそれ」
『戦闘を一回スキップするカードですよぉ。私がやってたゲームのアイテムですねぇ』
「人の回線で勝手にゲームするなよ…」
『…ログイン記録が途切れちゃいましたぁ…』
目をこすりながらしょんぼりする。
「…わかった、寝てていいぞ。【サリー】、スリープモード」
『…えへへ…おやしゅみなさい…むにゃ』
画面が暗転する。
「スキップチケットだって」
ちょいちょいとダンジョンねこがいじっている。
「…まあ、護身用にはなるか。戦闘をスキップ、と言うなら戦いを終わらせるカードだろ」
「『ファイヤーボールのワンド』よりはずっと実用的だ」
革のカード入れを取り出し、クレジットカードが入っていたポケットにしまった。
次に上下のスーツを『送還』し、『召喚』し直す。
よれてきていたスーツが、心持ちパリッとした気がする。
「お、『ダンジョン内自動修復/保全』が付いたぞ」
着直しながら、幸太郎が言う。『ダンジョン編集』でデータが見れるようだ。ダンジョン属性だけに。
「『編集』で書き換えられたら強かったんだがな…」
「『ダンジョンカリカリ』は?」
「…『ダンジョン内うま味上昇』が付いてるな」
…なんだ『うま味上昇』って、と思ったが、幸太郎は流した。
「じゃあダンジョン内で食べる」
「はいよ」
ダンジョンねことカラやんにカリカリを与えると、幸太郎は少し思い悩む。
「あと魔力1はどうするか……トランクスやTシャツ、ワイシャツに使っておきたいが……『スキップチケット』にどんな力がつくかも気になる……意外なところで『笑い袋』なんかも……」
「よし」
幸太郎は決断した。
「メガネだな」
メガネを『送還』で消し、『召喚』し直した。
「『ダンジョン内自動修復/保全』と…『魔力視』?なんか付いたな。ふたつ能力がつくこともあるのか?」
「なんだか得したね?」
ダンジョンねこはそう言いながら、タブレットを名残惜し気に舐めている。
◇
外に出ると砂漠の太陽が照りつけてくる。
「…暑っついなあ」
『簡易召喚』で砂を呼び出し、バサバサとダンジョンの石畳を隠す。
「市場に行って、なにか売るか『大金貨』を両替するか。俺は腹が減った」
手持ちの食料はモンエナしかない。カロリー的にはおにぎり一つ分ぐらいだろうか。
能力付与のこともあるので、出来れば取っておきたいと考える。
「ボクも食べたい」
『ォー』
「さっきカリカリ食べただろう」
「もっと食べる」
『ォ』
「さよけ」
砂丘を越えて、街を目指す。
ちょうど市場の外縁が見える。
カラやんを左腕に巻き付かせ、街に入ろうとすると声がかかった。
「…おい、お前」
「おっと」
そこにいたのは、髭面で強面の男だ。
ゆったりとした服装、短い曲刀を腰に刺し、ゆったりした布を頭に巻いている。
「…ああ、あんたか」
「なんだ、お前か」
初めて街に入った時に、会った男だ。
「…何故、今、砂漠の方から来た?」
あからさまに怪しんでいる。それはそうだ。
「そりゃもちろん」
幸太郎はしれっと答える。
「砂漠に泊まったのさ。な」
足元のダンジョンねこを見る。
「うん」
ダンジョンねこは答えた。
強面の男はダンジョンねこを見て目を細めると、話を続けた。
「…なるほど。言われてみれば賢明かもしれんな」
「この街は今、どうもキナ臭い」
「あんたのような身なりのものが、武器も護衛も持たずに宿を探してうろついていたら、デザメルの兵士共に絡んでくれと言っているようなものだ」
「…どうも」
もう絡まれた。
「ダンジョンの件もあるし、それにほら、あそこだ。市場の地面が小さく石畳に変わっていてな」
少し人だかりができている。
幸太郎たちは知らん顔をした。
「砂漠の悪霊がイタズラしたのかもしれん。くわばらくわばら」
強面の男は顔をしかめ、恐ろしげに身を縮めた。
「教えてくれて助かる。気をつけるよ」
「ああ。…じゃあな、猫ちゃん」
去ろうとする男に、ダンジョンねこが答える。
「じゃあね」
強面の男はビクリとし、幸太郎を見た。
「…今、ミャーって返事したか?俺に」
「ああ」
幸太郎は肩をすくめた。
「そうだろ」
「…そうか…」
考え深げにうなずき、男は改めてダンジョンねこに手を降る。
そしてホクホク顔で去っていった。
「ミャーだってさ」
幸太郎はダンジョンねこに言った。
「みゃー」
ダンジョンねこは、棒読みで答えた。
 




