表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/23

もうねなさい

「…まてよ?」



 幸太郎はふと気づいた。



「…砂が『ダンジョン砂』になるのなら、このカリカリも『ダンジョンカリカリ』になるんじゃないのか?」



(魔力を使って『召喚』した砂が『ダンジョン砂』になったのだから)


(カリカリを『召喚』し直せば美味しくなったりするかもしれん)


(『トレジャーボックス補正』と『ダンジョン属性付与』は、おそらく、ダンジョンねこマスターの力と考えていいだろう)


(…あるいはダンジョンねこの力が俺の魔力とシナジーを起こしているだけなのかもしれんがな。まあ得は得だ)



 考え込んだ幸太郎を、ダンジョンねこが口をつぐんだまま興味深げにじっと見ている。



「…どうした?ダンジョンねこ」


「べつに」



 ぷい、とそっぽを向いた。



「…まあ、試してみるか。『送還』」



 ドライフードの袋が消える。



 それを見るとダンジョンねこは、空中を()()()()と引っ掻く。

 カラカラと音がして、何もない空間からドライフードが落ちてきて、タブレット上に溜まった。



「あ、こら!」



 幸太郎は叱るが、ダンジョンねこはドライフードを食べ始めた。

 顔を上げ、素知らぬ顔で言う。



「おいしいよ。カリカリ」


「…まったく…。『召喚』、カリカリ」



 幸太郎の手の中に、ドライフードの袋が戻ってくる。

 …少し減っているようだ。



「太るぞ、ダンジョンねこ」


「へいき」


「…隙を突いて出し抜いたのは評価するが…」



 幸太郎はニヤリと悪い顔を見せ、手の袋を振ってみせた。




「…『ダンジョンカリカリ』にしたあとの方が良かったんじゃないか?」




 ダンジョンねこは食事を中断し、目を丸くし耳をピンと立てて振り返った。



「コータロー、ずるい」



「ずるくない。ズルをしたのはダンジョンねこ。カラやん、試しに一粒だけ食ってみてくれ」


『ォ?』



 砂の上にそっとドライフードを置くと、カラやんは体を伸ばし、真上からパクリと行く。



『…ォ!?』



 長い体をピンと伸ばした。

 ふにゃふにゃと崩れ落ちると、ぐねぐねしながらこんがらがってしまった。



『ォォ~』



 とても美味しかったようだ。



(…効きすぎじゃないか?うまかったようではあるが…)



 ダンジョンねこが駆け寄って、足をポコンポコンと猫パンチしてくる。

 そしてスーツの裾に爪を立て、立ち上がって幸太郎の足に、よじ登るかのようにすがりつく。



「ボクにもちょうだい」


「……」



 駄目、と言おうとしたが、幸太郎は両手を上げて根負けした。



「…わかった。一粒だけだぞ」



 食事中のタブレットに、一粒だけちょこんと追加する。

 ぴゃっと駆け寄ると、ダンジョンねこはガツガツと、残ったドライフードと一緒にあっというまに平らげてしまった。

 口の周りを舐め、上げた腕に鼻をこすりつける。



「…おいしいね。『ダンジョンカリカリ』」


「猫缶とどっちがうまい?」


「まだ猫缶かな」



 幸太郎に向かって座り直し、ダンジョンねこは真剣な顔で言った。



「はやく猫缶を出して『ダンジョン猫缶』にして」


「……」



(…もしこれでまたたび粉やチャオ○ゅーるが出たら、ちょっと洒落にならなそうだ)



 これから先の事に頭を悩ませながら、幸太郎は寝床を作ることにする。

 床に長方形の『ダンジョンウォール』を、寝かせて出す。



「ベッドと…」



 頭の位置に小さい『ダンジョンウォール』を寝かせて出した。



「枕だ」


「ふかふかというかぐにゃぐにゃだが…柔らかすぎるのもなんだな。丁度いい硬さにしてと…」



 触って確かめながら『ダンジョン編集』で柔らかさを調整していると、ダンジョンねこがひょいと上に登る。

 そのままベッドの上に寝そべり、どっしと居座ってしまった。



「なかなかいいね。コータロー」


「…ダンジョンねこ。今日は特に傍若無人だな」



 ダンジョンねこは寝転がったまま返事をする。



「コータロー、ボクをあまく見たね」


「ボクはもともと、とっても()()()()()()()()だよ」


「…とても強そうだ」


「そうでしょ」



 自分の場所だと示すかのように、ごろごろと転げ回る。



「…まて、わかった。お前のも作ってやるから」


「そう?」



 ダンジョンねこは顔を上げた。



 壁際に『ダンジョンウォール』で台座を作る。腰の高さほど、カラーボックス程度の台座だ。

 その上にやわらかい『ダンジョンウォール』を薄く敷く。

 座布団ウォールだ。



 興味深げにじっと見ていたダンジョンねこは、棚台座に駆け寄り、ぴょんと器用に登る。

 そして座布団ウォールの上にどっかと鎮座し、かぎしっぽをふりふりする。



「高いところは割とすきだよ」



 目を細めて、ダンジョンねこは言った。



(さて、当面の寝床は確保できた)


(魔力残量は0。ぐっすり寝たら『トレジャーボックス』と…)



 幸太郎は自分の腕をじっと見る。そこには当然、着たきりスズメのスーツがある。



(『装備品』の『ダンジョン属性化』を試してみるか…)


(ダンジョン砂のように、清潔を保つようになってくれれば助かるんだがな)



 ダンジョンねこに『召喚』された自分が持ってきたものは、カリカリと同じようにダンジョンの中に現れたものだ。

 だったら『送還』の対象になるし、『ダンジョン』属性の付与も可能なはずだ。



「よし、寝るか」


「いいよ」


『ォー』



 カラやんがひと声かけ、砂の中に潜った。



 メガネを外し、ベッドに横たわる。




「『ダンジョン編集』、ライトOFF」




 部屋の明かりが、パッと消える。

 暗闇に、水場のドアの隙間とダンジョンねこの瞳だけが光っている。



「おやすみ」


「おやすみコータロー」


『ォ』



 幸太郎は暗闇の中、そっと目を閉じた。



「すぅ」



「もう寝た」



 ダンジョンねこはびっくりして言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ