馬鹿な悪魔
なんだここは?
そこら一帯にひと・ヒト・人!!
うひっひっ、5世紀も地上に出ていなかったがどうやら人もかなり増えたらしいなぁ。これなら悪魔の仕事もやりやすくなる。
どうやってこいつらを「絶望」のどん底に突き落としてやろうかと今から考えるとわくわくする。
こんなに文明が栄えているならさぞ芳醇な魂ばかりなのだろう。幸せな奴の魂を少しでも多く刈り取ってすぐに持ち帰るとしよう。
俺は小躍りしそうになる体を抑えながら、いやに黒くて硬い地面を歩く。アスファルトってやつだ。
スマートな俺はちゃんと学習してからこの地上に来たのだ。あの鉄の棒から飛び出している三つ目の(信号というらしいな)赤色が光っているときは「止まれ」だ。
まったくあんな血のような色を見たら駆け出したくなっちまうってのに、なんであれが人間には危険の印なんだ?
おっと、青になったな「進め」…だ。勿論このときに大事な「片手を車(馬も魔力もないのに動くの鉄の塊だ)の中からも見えるように挙げる」というルールも忘れちゃいない。俺はナチス達のように手をピンと張り上げて優雅に歩く(なんでナチスなんか知っているかって?だから勉強したのさ)。俺は完璧なのだ。その完璧さに思わず笑みがこぼれてしまう。
だが周りにいる奴らもなにやら可笑しそうに俺のほうを見ている。しかし完璧な俺はその理由も分かっている。俺の今の姿が原因だろう。なんせ今の俺は魔界にいる間に観察した666人の人間の良い所だけを取り上げて足し、666で割りその上に身長を5cmほど足した姿だからな。
女はメロメロ、男はメソメソのダンディーでクールでエロカッコいい姿だ。フォー!!
今のは冗談だ…。それに古かったな。ナウくない。
とにかく俺は幸せそうな奴を探さなくては、魂の味ってのは「不幸せ」とかいったマイナスの感情で決まる。だがその「不幸せ」ってのは「幸せ」があって初めて生まれてくるもんだ。まぁこれも勉強の成果だがな。だからまずは「幸せ」な人間を探して、それから「不幸せ」にしてやらなけりゃならねぇ。まぁ人間で言うと「料理」ってやつだな。
俺はへんなひらひらした紺色の服を着た若い女三人を見つけて声をかける。っていうかなんでこいつら全くおんなじ服なんだ?まぁいい。
「おい、お前ら。お前らは今幸せか?」
俺はわくわくしながらこいつらの答えを待つ。三人いればどんなに少なくても一人くらいは幸せな奴がいるだろ。
「なにいきなり?お兄さんナンパ?幸せかって?うーん、もしお金くれたら幸せかな。」
だめだこいつは。後の二人は?
俺はすぐにもう二人の反応をみたがまるで同じ。口では普通なんて言ってやがるが魂からは甘い匂いはしない。はぁーと俺は溜息をつく。まぁ思春期の子供ってのはそんなもんか。皆が自分は不幸だなんてかんがえてやがる。仕方ないので他の奴に当たることにしよう。
少し歩いてから俺は次に少し年のくった女に同じ質問をする。
かなり金を持っていそうだ。それに外見も悪くない。かなり恵まれた人間だろう。
「お前は幸せか?」
俺はすぐに飛び掛りそうな衝動を抑えて答えを待った。
だが反応はさっきの女達と同じ。相変わらず口では何とでも言うが、魂の匂いにはどこも上手そうな匂いはしない。なんだこれは?
その後俺は少しあせって、老若男女構わずに同じ質問をしていく。だが結果は同じ。どいつもこいつも5世紀前に比べ恵まれた生活をしているくせに不幸せの匂いってやつが漂っていやがる。太陽が紅くなり、半分になってもまだ俺は質問を続けたが幸せなやつは見つからない。どうやら今の人類に幸せな奴ってのはいないらしい。
駄目だ。こうなったら…
俺自身が人を「幸せ」にするしかないようだ。