異国にて
ドキューン! ドキューン! ドキューン!
闇の中を数発の銃声が鳴り響く。
銃声が鳴り響いた方向から雪を踏みしめ2人の男女が現れた。
2人はリュックサックを背負っている。
さらに男はショットガンを肩から下げ右手に拳銃を握り締めていた。
「優花、大丈夫か?」
「ハアハア、大丈夫、ハアハア。
でも…………ハアハア、見て、前からもくるよ」
持っていた懐中電灯で前方を指す。
「チィ、囲まれたか?」
左手で懐中電灯を取りだし周りを照らして逃げ場所を探した。
乗り捨てられている大型トラックを見つける。
「あの上に避難しよう」
懐中電灯で大型トラックを示す。
「うん」
最初にリュックサックを下ろした優花を運転席の上に押し上げ、続いてリュックサックとショットガンを引き上げてもらう。
それから周りを見渡し自分の方へ寄ってくる数体のゾンビの頭に弾丸を撃ち込んでから屋根に這い上がろうとする。
「グゥ!」
這い上がる途中ゾンビが足に噛りついた。
「糞が!」
屋根にしがみついたままゾンビの頭を撃ち抜く。
何とか屋根に這い上がりそこから荷台に上がる。
「智君大丈夫? 傷を見せて」
噛み千切られたズボンをたくし上げ傷を見た。
脹ら脛の肉が大きく抉られている。
優花が傷の手当てを始めた。
「ごめんよ、優花。
此処からは1人で行ってくれ」
「嫌! 私は最後まで智君といる」
「でも、それじゃ…………」
「いいの、智君と一緒なら」
「ごめん! ごめんな、俺の我儘でこんな所まで連れてきてしまって」
冬の氷河を見たいという思いから、夏真っ盛りの日本から厳冬の南米に来たのが2週間程前。
国際空港のある首都から南下して3日目の朝、2人がいる部屋にガイドが飛び込んで来て世界中で起きている異変を知らされる。
混乱する地方都市を脱出し軍の駐屯地に逃げ込んだ。
駐屯地より数百キロ南にある海軍の軍港を目指して多数の兵士や大勢の避難民と共に移動を開始して8日目の昨日、数百体以上のゾンビの群れと遭遇してグループは散り散りになりこの時ガイドとも離れ離れになる。
近くにいた警察官と共に一軒家に逃げ込み息を潜めゾンビの群れがいなくなるのを待つことにするが、逃げ込む際警察官が噛まれていて彼は自分の頭を撃ち抜いた。
その銃声でゾンビが一軒家の周辺からいなくなるのに時間がかかり、散り散りになったあと三々五々集まり南を目指す人たちに置いてきぼりになる。
ショットガンと2丁の拳銃それに弾丸を頂き遺体に毛布を被せ南に向けて歩き出したけど、ガイドがいない事もあって道に迷い取り合えず南を目指して歩き続けて今に至る。
「そんな事言わないで。
1人で行くって言う智君に、無理矢理くっついて来たのは私なんだから。
だから最後まで一緒だよ」
「そうか、ありがとう」
「うん!」
マットを荷台の上に拡げ1つの寝袋に2人で潜り込んだ。
「見て!
上だけ、空だけ見ていれば、子供の頃実家の田圃に寝転がって見た、雪が舞う夜空と変わらないよ」
「本当だな…………」
抱き着き俺の胸を枕に首を曲げて空を見上げる優花の顎の下に銃口を向けると、優花はその拳銃を握る俺の手を震える両手で握り締める。
自分の顎の下にも拳銃の銃口を押し付け2丁の銃の引き金を同時に引き絞った。
「「ドキューン!!」」
2つの銃声が重なりあって雪の夜の静寂を破る。
深々と降り続く雪は2人の若者の身体を覆い隠していった。