生存者

願い

住宅街の一角に広い家庭菜園があるブロック塀にかこまれた家があった。

その家の玄関先で初老の男が穴を掘っている。

穴の深さが１メートルを越えた辺りで掘るのを止め、使っていたスコップを穴の側に盛られた土の上に放り出し自身も中から這い出た。

掘った穴を眺めまわしてから家の中に入って行く。

暫くして家から出てきた男は着替えたのか、穴を掘っていたときの汚れた作業服からこざっぱりした服に変わっていた。

持っていた寝袋やロープを穴の中に放り込み自身も穴の中に降りる。

寝袋に潜り込みロープで最初に両足を縛り、続いて左腕と身体を右手だけで苦労しながら縛りつけた。

それから寝袋のファスナーを上げ顔だけが寝袋から出ている状態になって穴の底に横たわる。

穴を掘っていたとき明るかった空は暗くなり幾つもの星が瞬いていた。

瞬く星を暫く見つめたあと男は目を瞑る。

家の門にボードがぶら下げられていて文字が書かれていた。

ゾンビに噛まれました。

でも自殺する勇気も手段もありません。

墓穴は掘りました、その中にいる私を永遠の眠りに就かせてください。

お礼として残っている食料と生活必需品を全て差し上げます。

倉庫の鍵は着用している上着のポケットに入っていますから、宜しくお願い致します。

穴の中では寝袋に包まれたゾンビが起き上がろうともがいていた。