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逃げなくちゃ

「野菜ありがとう。


ごめんね、お盆に帰省できなくて。


……………………………………


ウン、筍の煮物は直ぐ食べたほうが良いんだね、わかった。


じゃあね、父ちゃんに宜しく言っておいて」


母ちゃんが送ってくれた箱の中からトマトとキュウリにスイカを取りだし冷蔵庫に押し込む。


冷蔵庫に入りきらないトマトとキュウリは水を張ったボウルに氷と共に入れ、卓袱台の上に。


タッパーに入っていた筍の煮物も卓袱台に置く。


冷やす必要が無い茄子にジャガイモにトウモロコシは箱に入れたままキッチンの隅に。


昨日の残りの冷や飯と味噌汁で昼食の用意は整った、あ、そうだ塩、キュウリに味噌も良いけど俺は塩だな。


昼食を並べた卓袱台の前に座り箸を握りついでにテレビのスイッチを点ける。


画面に映し出されたのは帰省客でごった返す新幹線のホームで、マイクを持った記者が新幹線から降りてきた小さな男の子にマイクを向けたところだった。


男の子が質問に答えようとしたとき隣のホームから悲鳴と怒号が上がる。


カメラがそちらに向けられた。


隣のホームに停まっている客車の乗降口から乗客が先を争うように降りて来て階段に向けて走り出す。


悲鳴と怒号を上げながら降りてきた乗客の後ろから青白い顔で口回りや服を赤く染めた男女が数人覚束ない足取りでホームに降り、先を争うように降車した人たちを呆気にとられた顔で眺めていた乗車の順番待ちの帰省客に掴み掛かり、むき出しの首筋や腕に噛みつき肉を噛りとる。


え!?何だ? 何が起こっているんだ?


乗車の順番待ちをしていた人たちに掴み掛かりその肉を食い千切っている男女の後ろの乗降口から、同じように青白い顔をして首筋や肩や腕の肉を大きく食い千切られていたり、骨がむき出しになり腸を引きずっていたりした老若男女が次々と降り立ち、腕を前に突きだし覚束ない足取りで逃げ惑う人たちの方へ歩を進めている。


テレビの画面が突然切り替わりこのまま暫くお待ちくださいのテロップが映し出された。


切り替わったテロップを見て我に返った耳に窓の外からパトカーや救急車それに消防車のサイレン、それと人の悲鳴や警官が発砲しているのか銃声が聞こえて来る。


握っていた箸を放り出し、20階建てのマンションの中程にある部屋から町の中を見下ろした。


マンションの数階斜め下のベランダから男性の悲鳴が聞こえたのでベランダから身を乗り出して見下ろすと、手すりに背中を付けた男性とその男性に掴み掛かる女性が見え2人は互いに掴み合ったままベランダから転落。


転落してピクリとも動かない男性に一緒に落ちた青白い顔の女性が何事もなかったように歩み寄りその身体に噛り付く。


彼女だけでなくマンションの敷地内や道路上では、悲鳴を上げ逃げ惑う人たちに青白い顔をした男女が掴み掛かり身体に噛り付いていた。


狭い裏道を走っていたトラックが、前から近寄って来た手を前に突きだしノロノロと歩む女性をスピードを落とすことなく撥ね飛ばす。


見下ろしていた目を徐々に上げあるところで止めた。


見えたのは向かいの低層マンションの通路で白い毛を血塗れにして貪り喰われる猫。


喰っているのは何時もその猫を抱き抱え散歩に連れて行く綺麗なお姉さんだった。


猫を貪り喰うお姉さんから目を離し町の中を見渡す。


火事が起きているのか町の数ヵ所から真っ黒な煙りが上がっている。


沢山のクラクションが鳴り響く音で1キロ程先の高速道路に目を向けた。


高速道路上には帰省する人たちの車の列の間に町から逃げ出す人たちの車が隙間を見つけては前に前にと突き進んだらしく、ぎっちりと埋まってにっちもさっちも行かなくなっている。


にっちもさっちも行かなくなった車の上を歩いている人たちが見え、その人たちに掴み掛かる人の姿も見えた。


こ、これは、夢か?


自分の頬をおもいっきり殴る。


「痛い! 夢じゃないのか…………。


そうだ! 逃げなくちゃ」


ベッドの上に放り出されていたジーンズに足を突っ込みシャツに腕を通す。


「財布に車のキーに通帳。


あと何だ? あ、武器が必要だ」


ショルダーバッグに着替えやその他の必要と思う物を入れ、武器になりそうな物を物色。


「包丁しかないな? 車のトランクにバールがあったよな?


他に何か無いかな?


フライパン、これ武器として使えるかな?」


キッチンの流しの下や戸棚の戸を開け閉めしながら武器になりそうな物を探す。


キッチンや戸棚の戸の開け閉めの音に気が付いたのか独り言を聞き付けたのか、通路に面した開けたままだった窓の格子の隙間から突然、青白い顔の女が唸り声を上げながら腕を差し伸べて来た。


「ウガァァァァ」


「ヒィ!」


通路にいるのはこの女だけで無いようで玄関のドアが乱打される。


「ヤバイ!


玄関は駄目だから…………ベランダから逃げよう」


ベランダに走ろうとしたら隣の部屋と自室のベランダを仕切る仕切り板が乱打され割られる音が聞こえて来た。


「ああ、どうしよう?」


俺は逃げ場所を探しながらベランダから部屋に入って来た青白い顔の隣人だったものの頭を、フライパンで力一杯殴り付けた。




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