プロローグ
週1での更新になりますが、見切り発車の為怪しいです。R15はただの保険(だと思う)
エロを期待されている方に先に言っておきます。ごめんなさい。そういう描写の予定は今のところありません。
聖メネット教。
それは、創造神メネットを筆頭にした幾多の神々の教えを救済の福音として信じる宗教。
戦の神、豊穣の神、狩猟の神、愛の神、鍛治の神。
人によって信ずる教え、宗派は数あれど、その全ては創造神メネットへと通じ、救済の道を人々へと指し示す。
聖メネット教は、世界の7割以上が信仰する最大の宗教である。
そんな、世界最大の宗教である聖メネット教は神都ネウロを宗教の中心と定め、神都ネウロには総本山であるウル・メネット大聖堂を囲む様に様々な宗教関連施設が広大な都の隅々にまで建ち並んでいる。
それは言わば宗教都市。
そんな神都ネウロであるからこそ、人も、物も、金も、権力も、全てが流れてくる。まるで必然であるかの様に――
神都ネウロの中心地、ウル・メネット大聖堂には今日も多くの信者達が足を運ぶ。
その多くは信仰心のあつい者達ばかりであるが、とある事情で現在はその様相が少し異なっている。
世界の7割が信仰する聖メネット教ではあるが、当然それにも個人差はある。盲目的に信仰する者とそうでない者。同じ信者とてそれぞれ事情が違う。
信仰のあつい信者が、わざわざ海を越え遠くの地からこの神都ネウロまでやってくる事は然程珍しい事ではない。それだけ聖メネット教に熱狂的であるという事だろう。
だが、いまはそれほどに信仰心のない、普段は地元の礼拝にもあまり顔を出さない様な者達も、ここネウロに足を運びつつある。
通常ならば喜ばしい事である筈のそれを、現在の状況では聖メネット教の首脳陣は手放しで歓迎出来ないでいた。
聖メネット教が発足してから約2000年。
その長い歴史の中において、宗教間内の対立、腐敗、その他にも様々な問題が起き、それでも何とか乗り越えて来た。
そうやって、数々の苦難を乗り越えてこれたのは、考え方、捉え方は違えど、一重にその信仰のベクトルが創造神メネットに向いていたからに他ならない。どんなに横道脇道に逸れようと、目指す場所はみな同じなのである。
そんな聖メネット教が、今もまた大きく2つに割れようとしている。
聖メネット教には5人の法皇が存在する。
絶大な権力を有する聖メネット教の権力の一点集中を防ぐ為の5人であり、それぞれがそれぞれの考え方をもって聖メネット教を取り仕切っている。
そんな5人の法皇は現在、聖メネット教の長い歴史の中を紐解いて見ても前代未聞ともいえる危機を乗り越えるべく、ウル・メネット大聖堂の一角に集り、数日に及ぶ長い長い話し合いを行っている真最中。
否。
それは話し合いと言うよりも、ただの説得に近い。
聖メネット教が大きく2つに割れようとしていると言ったが、それも少々語弊がある。
5人の法皇達はみな同じ意見である。
勿論ながら、その事に難色を示す法皇もいたが、世界を天秤に掛けるにしては、その対象、その反対理由があまりに馬鹿馬鹿しく、小さ過ぎたのだ。
にもかかわらず、法皇達はその全会一致の決定を実行出来ずにいた。
ただ一人、その決定を不服とし、断固として反対する者がいたからである。
世界の命運がかかるこの決定に断固として反対する人物。
名を、マリア・レドリフという。
齢18になるこの少女は、5人の法皇と同列の地位を有する聖女であった。
前聖女が天寿を全うしたその日、産まれ変わる様にこの世に生を受け、神託によって選ばれたまごうことなき純潔の聖女。
整った顔立ちに輝く様な長く美しいブロンド。その微笑みは老若男女問わずみなに愛され、絵画や銅像などといった美術品の中で見られる聖メネット教の美の神アウラと対比される事も珍しくなかった。
だが、そんな聖女の微笑みも今は見る影もない。
眉を釣り上げ、子供の様に声を荒げて、説得を試みる法皇達に真っ向から対立している。
赤子の時から聖女として扱われ、こんにちに至るまで聖女として教育されてきたマリアにとって、今回の法皇達の決定はとても容認出来る内容ではなかった。ゆえに四面楚歌、孤軍奮闘の状況にあっても決して首を縦に振ろうとはしない。
マリアとて馬鹿ではない。
法皇達の言っている事も、今がどういう状況かも十分に理解している。だがそれでもマリアは首を縦には振らない。
マリアは、自分は主である創造神メネットに身も心も捧げた聖女であり、それは例え世界の危機という現在の状況でも一切変わる事はないと自負している。自分の生涯の伴侶は創造神メネットであり他の誰でもない、と。
そして何よりも、今回の発端となった者がマリアの愛する創造神メネットとは真逆に位置する者の発案である、という事がマリアにはとても許せる事では無かった。
あの者の言葉に踊らされ、言いなりになるのが許せなかった。
それに追従する法皇達が許せなかった。
もしも教義に反していなければ自分で命を断っている。それほど、マリアにとって今回の事は受け入れ難い事であったのだ。
「いい加減にして下さい!」
ウル・メネット大聖堂にマリアの声が響き渡る。
「法皇様方は気でも触れられたのですか!? 聖メネット教の誇りも教義も捨ててあの者の言いなりになるなど、正気とは思えません!」
「マリア、口を慎みなさい。そして少し落ち着きなさい」
「落ち着いてます! 私は至って冷静です」
とてもそうは見えない態度と憮然とした表情でマリアが法皇ベネスへと言葉を返した。
「マリア、何度も言うが」
「何度も言われておられるならもう言わなくて結構です。何を言われても私は意見を変えません!」
「世界の危機なのだ。こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎてゆく」
「まだ一年以上あるではありませんか」
「逆だマリア。もう一年しかないのだ。世界の破滅まで……。その期限とて絶対ではない」
「左様。――マリア、君が首を縦にさえ振ってくれれば、ただそれだけで世界は救われるのだ」
「一時の救いです。神はお許し下さいません」
「神は寛容だ。きっと許して下さる」
「神に仇なす者の口車に乗ってもですか!? 私はそうは思いません。今回の決定は神への反逆以外の何物でもありませんではないしょうか? そんな我らを、神が愛してくださると? いえ、例え神がお許しくださっても、反逆の過去は消えません。私は、神に唾を吐いてまで生き長らえたくはありませんので」
「お前はそうでも、民衆がそれで納得する訳がなかろう。誰も世界の破滅など望んではいないのだ」
「信ずる心さえ持っていれば、神は必ずや我らをお救いくださいます。救いはあるのです。法皇様方、目を覚まして下さい。反逆者の口車に乗ってはいけません」
マリアの言葉に法皇達は深い溜息をついた。
教会のシンボルとしてマリアを聖女に祭り上げ、そうあるべきと教育してきたのは自分達である。その洗脳にも近い盲目的に育ったマリアの信仰心は、事ここに来て事態解決の大きな足枷となっている。
マリアの頑なな態度。法皇達には、それが自分達の責任であるという思いもあるが、それ以上に、立場を抜きにして、赤子の時から可愛がってきた孫の様なマリアに、この様な馬鹿げた決定を受け入れさせなければならないという思いがあった。
これがマリアではなく、自分であったならば、どれだけ気が楽であっただろう。勿論、あの反逆者が自分達年寄りにその様な提案をする訳がないのは分かっている。
聖女だから、マリアだからこそ、今回の事態に繋がったのだ。
「とにかくです!」
マリアが立ち上り、囲む円卓を強く叩いた。
「法皇様方が何と仰られようと、私は絶対に了承しません! 首を縦には振りません! 死んでも嫌です! いっそ殺してください! 私はメネット様に身も心も捧げた聖女です。例え何があろうと、ぜーーーっったい!
私の処女は!
誰にも!
あげませーーん!」
二話までは本日中に公開予定