プロローグ
「異常なのは今の世界の価値観なのです。観客の皆様を含め、今の人間は過激な刺激を求めている。だから私は道化師として担任としてパフォーマンスを演出しているのです。」
そう僕達にピエロは言った
銀食器のカチャカチャと音を立てながらナイフとフォークを丁寧に使いながら
人肉を食べていた
ナイフで腹を割き、フォークで内臓をクルクルと取り出した
まるで、パスタの様に
ズズー
内臓をすすり終わるとこう言った
「どうして先生がピエロになったかわかりますか?口に血がついてもわからないからですよ」
そう先生はニヤリと笑いながら言った
「さあ!観客を湧かせる怪談を始めましょう!!」
そして僕は悟った
この学校に入学してはいけなかったのだと…
地獄の様な学校生活が始まる
時が遡る事入学前
僕、蓮池洸は人生のどん底に居た
何故なら高校受験に失敗したからである
僕は中学の先生に勧めるまま余裕を持って合格できるようにひとつランクを落として確実に入れる公立高校を受験した
母子家庭である僕の家は正直あまり裕福という訳にはいかずとても私立に通えるお金がある家じゃ無かった
だから私立は受験せず公立一本を受験した
母さんや中学の先生共にランクを落としただけあって絶対受かると安心しきっていた
だが現実は何があっても可笑しくなく人に甘くなかった
その日、僕は合格発表の掲示板の前で立ちつくしていた
一緒に発表を見に来ていた母さんは泣いていた
「災厄、あんた本当に運が無いね」
と母さんは言った
母一人で働き、ここまで僕を育ててくれた母さんが初めて僕に愚痴った
母さんのいう通り僕は何をやっても思い通りにならずこの世界は僕に優しく無かった
その帰り母さんは疲れた顔をしながら一緒に居酒屋へ行きカウンター席に二人で腰をかけ、母さんは焼酎をどんどん飲んでいた
「あんたを学校に行かせる余裕は家には無いのよ、悪いけど働いてね」
「分かってるよ母さん、でも少し飲み過ぎだよ」
僕は母さんに本当に感謝していた
ここまで僕を女手ひとつで大きくしてくれた
だからこれ以上迷惑はかけたくないし支えたかった
「本当はあんたを学校に行かせてやりたかったんだけどね」
そう母さんは涙を目に浮かべて言った
初めて母さんの涙を僕は見た
「僕なら大丈夫だよ、母さんは心配しないで」
「でもねぇ…」
母さんは口では働けと言っていたが何か諦めきれない様だった
「…そうですか、でしたらいい話がありますよ?お母さん」
いきなり僕の隣から声がした
そこには怪しげなピエロが僕の隣に座っていた
僕は仰け反って驚いた
しかしこんなに怪しげなピエロが居酒屋でいるのに誰も彼を気にもかけなかった
そして母さんも酔っていたのかそのまま普通に話をしていた
「洸!喜びなさい!このピエロ先生が経営してる学校にタダで入れるそうよ!」
母さんは涙を流して喜びながら僕に言った
「そ、そうなんだ」
正直こんな怪しげな男の学校には絶対に行きたくなかった
でも、こんなに喜んでくれてる母さんに行きたくないとは言えなかった
「洸君宜しくね」
そのピエロは僕に手を差し伸べた
「は、はい、宜しくお願いします…」
そう言うと手袋をした先生の手をとって握手を交わした
その時、ニターっと笑った先生の顔を見たら僕の全身は冷や汗が止まらず鳥肌が全身に立った
いや、実際にはピエロの仮面を着けたその先生の仮面が見方で不気味な笑顔の仮面に見えたのだった
学校初日の登校日
その学校は出来たばかりで僕達は記念すべに一期生だった
その為入学金は要らず授業料も無料
その上寮生活らしくその費用もタダで至れり尽くせりだ
あの怪しげなピエロは気になるがこれで母さんに迷惑をかけないで済むし何せ諦めかけていた高校生活を楽しめるんだ
期待を胸に学校へ行った
僕は一年壱組だった
教室の前のクラス札を見ると壱の漢字が違うのが気になったがまあ直ぐにそんな事はこれから起こる事を前に忘れる事になる
教室に入るとまず目を奪われたのは机だった
教室の広さは普通だったが机は数が少なかった
それに並べられた机は散り散りに置かれていた
(やけに机の数が少ないな…1、2、3…10しか無いじゃないか、じゃあこのクラスは10人しかいないのかな?)
僕意外の九人は既に着席していた
僕が教室に入ると一瞬僕に皆注目していたが直ぐ各々何かをしていた
ひとつだけ空いている教室の真ん中に位置する席は僕の名前のテープが貼られており何の疑いも無く僕はその席に座った
机の中には何も入って無かったが一応中を確認するため手を中に入れると
「イテッ」
人差し指にチクリとした痛みを感じたのだった
見るとそこからは血が出ていた
多分画ビョウが仕組まれていたのだろう
血の出た指を舐めていると右斜め後ろから「クスクス」と笑い声が聞こえた
振り向くとこれ見よがしな不良の男子がそこには座っており僕を笑いながら見ていたが目が合うと
「何だよ?!」
と睨んできた
不良とは関わりあいたく無かったので直ぐに前に目を反らすと後ろから「チッ!」と舌打ちされた音が聞こえた
「あんなの相手にする事無いわよ」
次に話かけてきたのは左斜め前の美少女で僕に笑顔を向け話かけてくれた
黒く長いきれいな黒髪、大きな瞳は少し赤みがかっていて華奢な体型をしていたがグラビアアイドルの様なプロポーションで今まで見たことが無いぐらい綺麗な人だった
僕は生まれて初めて異性を見てこんなにも心がざわついた事は無かった
「ガチャ」
教室の少しあったざわつきは静寂に変わった
入ってきたのはあのピエロだった
ピエロはそのまま教壇に立つと不気味な笑顔の仮面のまま話始めた
「皆さん、初日そうそう遅刻者がいないのは先生感心しました」
しかし次の瞬間、先生のピエロの笑顔の仮面は笑顔のまま何処か怒りを感じさせる表情を見せた
「でも、いじめはいけませんね?」
そう言って先生は僕の方を見た
そしてゆっくりと近づき僕の前へ立つと
「蓮池洸君、少し立ちなさい」
と、言われ僕は言われた通りにした
先生は机に手を入れると僕が人差し指を刺した画ビョウを取り出した
「こんな事をしてはいけませんね?青山仁君?」
僕の右斜め後ろの不良に向かって先生はそう言った
「おい!可笑しげな格好した先生よ、何処に証拠があるって言うんだよ?あまり舐めた真似してると親父が黙っちゃいないぞ!」
「証拠も何も必要ありません、この学校では私がルールで、私が黒だと言ったらそれは黒なのです」
「そうかよ!議員の親父に言いつけてやるよ!親父に言えばお前みたいな一介の教師なんて直ぐに社会的に抹殺されるんだからな!」
先生は青山にそう言われると教壇に戻って行った
「ふん!大したことねぇな」
そう青山は捨て台詞を吐き捨てた
「…青山仁君?」
教壇に戻ると先生はまた青山を呼んだ
「何だよ?まだ文句があるのか?」
「いえいえ少しお聞きしたい事がありまして」
「あん?」
「あなたの議員のお父さんとはこの人の事ですか?」
そう言うと先生は黒板をバン!と叩いた
すると上からドサッ!と音を立てて教卓の上に何かが落ちて来た
それは縛られた男の人だった
「お、親父?!」
「そうですか、青山仁君のお父さんでしたか、それは残念な事をしてしまいます」
すると先生は銀食器のナイフを取り出したしそのナイフを強く握り直し振り上げた
「おい!止めろ!」
「ヴゥーウー!」
縛られた男は何かを叫んでいたが分から無かった
グザッ
ブシュー
ピエロはその男の首を一突き突き刺した
するとその男からは大量の血が噴水に溢れ出した
その返り血は生徒達に飛び散り先生のピエロの仮面は血に染まった
ほとんどの生徒が怯えた、目を反らした
「青山仁君?無抵抗の人間に危害を加える事がいじめなのです。これで良く分かりましたか?」
そう先生に言われた青山は目を見開いたまま何も言わなかった
先ほどまでの威勢が嘘の様に怯え震えていた
「まあ、この男は青山仁君のお父さんで無くても先生が殺さ無くてはならない対象なのです。」
誰もが声を失ったまま先生は一人話続けていた
「先生は悪者が嫌いであり悪が好きなのです。この男はそれです。何故ならこの男は国民が泣く泣く納めた税金を自分の為に使い込んでも誰も裁かない悪者。そんな悪者、死んで当然です。」
次に先生はフォークを取り出した
「それにしてもとても先程まで生きていただけあって新鮮な肉ですね。やはり人間が動物も魚も新鮮さを求める理由がわかりますね。それも悪が詰まった肉。だから食べたくなる。依存してしまいますね。」
僕達はそのピエロの行いに目を疑った
中には失神するもの嘔吐するものもいた
その以上な光景
ピエロはその死んだばかりの男の人肉をフォークで切り取り一口食べたのだ
「美味しい」
その血に染まったピエロの仮面の表情は変わるはずは無いのにとても恐ろしい仮面に見えたのだった
「アァ、やはり止められませんね。人が悪いと思っても止められないタバコみたいな物ですね。」
ピエロの仮面は不気味に何処か悦に入っている様だった
「人間じゃない…」
僕は自然にそう呟いた
「おや?蓮池洸君、良く分かりましたね。私は怪人です。元は殺人鬼でした。100人は殺しそれ以上は数えるのをやめました。人を殺し過ぎ、そして人の恐怖のあまり沢山の噂から成したのが私なのです。だから先生は怪人になれたのです。」
「まあ、ホームルームはこれぐらいにして皆さんにはこの学校の怪談に挑戦してもらいます」
「怪談…?」
「観客を湧かせるのは道化師の務めです。ですから皆さん生徒は演者になってもらいます。」
「どうして僕達が…?」
僕は直ぐにピエロに質問した
「君達は選ばれたのです。この観客を楽しませる怪談の演者に。この世の中、何の能力も無い人間がタダで学校何て行けません。それにあなた方には何か他に目的があるからここに居られるのでしょう?」
(目的…?何の事だろう?僕はただ母さんに心配かけたく無かっただけなのに他のみんなには何か目的があるのかな?)
「その目的を果たす為にはこの学校を卒業式を迎えるしかありません。まあ、どのみち君達の未来はこの学校を卒業する以外道は残されていませんしね。」
「異常だ…」
ピエロ先生は怪しげな笑みを浮かべていた
どうやら僕達の反応が面白かったみたいだ
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「あ、自己紹介が忘れてましたね。
先生は見た目のままピエロ先生と呼んで下さい。」
そして、ピエロ先生はたっぷりと言葉を溜めてこう言った
「趣味は、人殺しです。」